乳がんの標準治療。がん治療では標準治療が一番

小林麻央、という女性がいました。

彼女はフリーアナウンサーとしてニュース番組などにも出演し、皆からの憧れの存在でした。

歌舞伎俳優と結婚し子宝にも恵まれ、順風満帆な生活を送っていたかと思いきや、彼女は乳がんという病魔に襲われます。

懸命な治療も限界があり、2017年6月、34歳という若さでこの世を去りました。いまでも関連したニュースをいくつか見ます。

ここではがん治療における標準治療の大切さについて、考えてみたいと思います。

乳がんは比較的根治が期待できるがんである

乳がん自体はがん全体の中ではそこまで悪性度の高い病気ではない、というのが腫瘍学に携わる医師の一般的な認識かと思います。

今では診断方法が格段に発達し、若い女性に向けての啓蒙活動も活発に行われています。

加えて病気が初期の段階であれば、手術を行うことで高い生存率を得ることが知られています。

もちろん手術だけなく、化学療法や放射線治療を併用することによって、他のがんよりもより効果的な治療を行うことが可能になっています。

また乳房とういのは女性にとっては外見上非常に重要な器官ではありますが、生命維持という点では肺や肝臓、腎臓に比べると優先順位は低くなります。

したがって乳房を一部切除したり、場合によっては全摘したりと、思い切った手術も可能です。このような背景も、乳がんの長い生存率に寄与していると思われます。

乳がんは若い女性にも見られる

ただし乳がんの難しい点は、若い女性によく見られる病気ということです。

例えば肝炎ウィルスが原因でよく起こる肝臓がんとか、喫煙が原因の肺がん等は、もちろん若い男性や女性に起こることもありますが、全体的な頻度から見れば非常に少なくなっています。

多くの場合の肝臓がんや肺がんは、そのような発がんの原因が蓄積してきた高齢者に多く見られます。

一方で乳がんは、女性ホルモンがその病気の発生に非常に重要な役割を果たしており、若い女性にも多く見られる病気であることが知られています。

外来にやってきた患者さんが、小さなお子さんを連れてきたりするのをみて、乳がんはほんとに若い女性にも起こるんだということを実感したことがあります。

このような若年者におこるがん、であることは社会的にも重要視されており、様々な啓蒙活動がなされていますね。

麻央さんは最初、標準治療を受けなかった?

医療の発展により、さまざまな新しい薬が開発され、乳がんにおいてもホルモン療法、化学療法、もちろん放射線治療もそうですが、より長い期間生存することが可能になってきました。

肺や肝臓など他の臓器にがんが転移している乳がんの患者さんでも、薬をうまく使うことによって数年から10年近く、ほとんど病勢を進めることなく生活している患者さんもいらっしゃいます。

そんな中で、衝撃的なことに、乳癌がわかって最初の頃は麻央さんは標準治療を受けなかったなどの報道もありました。

患者さんを診療していても、抗がん剤や手術などの標準治療を受けずに、民間療法に頼る方もいます。

免疫の細胞を使ったり、マッサージをしたりなど、通っておられるクリニックや病院ホームページや説明を見ているともっともらしいことが書かれていたりもします。

ただし、保険適応でない治療に関しては十分に見極めて選択することが必要です。

民間療法はお金を捨てるようなもの、という医師もいる

ごく稀に樹状免疫療法など、少しばかりエビデンスの治療をやっている場合もありますが、保険適応でない治療のほとんどは金儲けのためにやっているようなものです。

もしこれらの治療が苦痛を伴う抗がん剤や手術の治療よりも楽に受けることができ、効果があるともなれば、厚生労働省がとっくに保険適用しているはずです。

実際のところはこれらの民間療法は保険適用になっておらず、患者さんに聞いてみるとびっくりするような金額を支払っていたりすることも多々あります。

なんの治療を受けるかは患者さんの自由ですし、民間療法を行なっている医師や患者との関係もあるので、診察室の中では、ほとんどの医師は表立って批判することはありません。

普段病院で抗がん剤を使用している身としては、民間療法を提供している側は心が痛まないのかなあとも思ってしまいます。

とにかく保険適応でない治療に関しては、十分に注意する必要があります。

がん治療において標準治療を受けることが大切

乳がんに限ったことでは無いですが、標準治療を受けると言うのが病気を治す確率を最大にする方法です。

幸いなことに日本では国民皆保険制度であり、お金を持っている人も持っていない人も、基本的には同じ治療を受けることができます。

これは裏を返せば、いくらお金を持っていたとしても高い確率で癌を治せるような、魔法の治療を受ける方法は存在しないということです。

乳がんは若い女性がかかりやすく、患者さんの数も多いので、ホルモン剤や抗がん剤の治療など、日進月歩の言葉通りに発展している領域です。

お金のかかる最先端の治療が必ずしも良い治療とは限りません。医師とよく相談し、これまでの実績のある標準治療をぜひ受けてもらいたいものです。

【医師の視点】がん治療における治療適応の決まり方。治療方針を左右する要素5個

2018年3月30日

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