血液検査は、病院の中の検査でも最もポピュラーなものです。どんな画像検査よりも、採血は最も手軽に体の多くの情報を得ることができます。
採血結果は何十項目もあり、医師はそれらの項目の値から、患者さんの状態を把握しているわけです。
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採血項目の中でも、重要度が違う
医師はすべての項目をすべて集中して見ているわけではありません。
集中して見るべき項目と、さらっと見るだけでよい項目があるわけです。
つまり必要な部分だけに注目して確認することで、効率よく医療業務を行なっているわけですね。
車を購入するときも、燃費や駆動方式、車両価格、カラーはすごく重要な項目です。
一方で、車高とか、燃料タンクの容量とか、ヘッドライトの数なんかは、そこまで重要視している人はいないでしょう。
これと同様に、採血項目の中にも、必ず確認すべき項目とそうでない項目があるわけです。
ここでは、健康診断や臨床業務でみられる項目について一通り列挙し、そのうち重要と思われる項目について詳細に解説しています。
採血項目一覧
健康診断と病院の中の採血では、若干着目する値が異なっているかと思います。
ここでは、基本的に病院にやってきた患者さんで、医師が注目してみている値には、★マークをつけております。
★白血球 – WBC
血液中に流れている、免疫系の細胞です。
この白血球と言う値は人によって値が結構異なっており、体質的にいくらか高かったり、低かったりする人もいます。
ですから正常値の範囲内にないからといって、すぐに異常と言うわけでは全くありません。
この辺は、普段の健康診断で問題になる事はあまり無いかと思います。
炎症との関係
白血球というのは免疫を担当する細胞ですから、風邪などの炎症がある場合には、高い数値がでます。
手術後など、体に侵襲が加わった直後の採血でも、上昇します。
抗がん剤との関係
抗がん剤を投与している患者さんでは、この白血球という値はきわめて重要になります。
抗がん剤を投与していると、白血球を作っている骨の中にある骨髄と言う組織がダメージを受けて、この値がどんどん下がってきます。
白血球が少なくなるということは、細菌に打ち勝つ力が弱くなるため、肺炎などの感染症にかかりやすくなってしまいます。
ですから抗がん剤の投与を受けている患者さんでは、この白血球と言う値は非常に重要になってくるわけです。
もし白血球が少なければ、抗がん剤を延期したり、量を減らしたりという対応が必要になってきます。
白血球の他に、好中球という値も非常に重要になってきます。
好酸球、好塩基球、★好中球、リンパ球、単球・・・
いっぱい球が出てきましたね。これも健康診断レベルでは大して重要ではありません。
これらの球は、白血球の内訳になっているわけです。つまり、簡単にいうと好酸球+好塩基球+・・・・単球の全部の数=白血球の数ということになりますね。
結果のところには、Eos(=好酸球)、Baso(=好塩基球)、Neu(=好中球)、Lym(=リンパ球)、Mono(=単球)と書いてあるかもしれません。
これらは白血球分画と呼ばれ、特定の病気だとすごく重要になりますけど、まあ健康診断レベルでは大して気にすることはないですね。
好中球は重要
ただし、この中で一番重要なものがありまして、それが好中球という球です。
先ほど白血球は免疫系に関わると書きましたが、白血球の中の好中球こそが、一番免疫系に関わっているのです。
つまり好中球こそが、主体となって細菌に打ち勝つ役割をになっています。
抗がん剤を投与して良いかという指標においても、白血球だけでなくこの好中球というのも非常に重要になってきます。
★赤血球 – RBC
血液中に存在し酸素を運ぶために活躍しています。
正常値はおおむね400-500(単位は割愛)とされていますが、男女によっても少し差があります。
赤血球の数が減ってくれば、当然貧血と言えるわけですが、実は赤血球の数自体はあまり見ていないことが多いですね。
どちらかと言うと下で説明しているヘモグロビンと言う値を貧血の指標に使用にしていることが多いです。
★ヘモグロビン – Hgb
ヘモグロビンとは、赤血球の中に存在するタンパク質のことで、まさにこのヘモグロビンと酸素が結合して、全身の隅々まで酸素を運んでいます。
医者が採血結果を見て貧血かどうかを判断するとき、最も重要視しているのは、このヘモグロビンと言う値になります。
このヘモグロビンの値も、正常な人であっても多少幅がありますので、基準値でないからといって、すぐに何か治療しなければならないと言うわけではありません。
貧血になる原因はいくつもあります。
輸血を行う基準と言うのも、ヘモグロビン= 7以下というのが、一応の基準となっています。もちろん患者さんの臨床経過によっても多少異なります。
MCV、MCH、MCHC
これらの値は、似た者同士ですね。
詳細に書くと、MCVは平均赤血球容積、MCHは平均赤血球血色素量、MCHCは平均赤血球血色素濃度ということになります。
私自身は、血液疾患の専門家ではないので、これらの値に着目することがほとんどありません。他の臨床の先生も同様でしょう。
貧血のある患者さんで、その原因を考えたりする場合には、これらの値が重要になってきます。
また血液内科の先生のように、血液を専門にする先生はこの値に着目しているのかもしれません。
★血小板 – PLT
血小板は、血を止めるための役割をしています。この血小板の値も非常に重要です。
血小板の値がどんどん下がってくると血が止まりにくくなってきます。
よく言われるのは、腕をぶつけただけで内出血が簡単にできるとか、歯を磨いていると歯茎から血が出て止まらない、と行ったような症状です。
血小板輸血は健康な患者さんでは滅多に行わないですが、あまりにも血小板が下がりすぎると、血小板輸血というものを行うのが必要になってきます。
輸血を行う基準は、赤血球の輸血と同じように、明確な決まりはありません。
RDW
日本語でいうと赤血球容積粒度分布幅で、ばらつきを示す値らしいです。
私自身はこの数値を用いて何か患者さんの治療に役立てたことはありません(申し訳ありません)
まぁ、そんな重要でないってことですよ・・・
総蛋白 – TP
トータルプロテイン、つまりはタンパク質ということですね。
栄養状態が悪い患者さんだと、多少低くなったりします。こちらよりは、下記に述べるアルブミンの方が重要な指標ですね。
★アルブミン – Alb
アルブミンも重要な値です。このアルブミンは一般的に肝臓で作られます。ですから、肝臓の機能を見るのに重要な指標として使われています。
アルブミンにはいろんな役割がありますが、簡単にいうと体液のバランスを保つのに役立っています。
ですから、アルブミンがすごく少ない状態だと、腹水や胸水がたまったり、足がむくんだりするわけです。
よくアフリカの子供の写真で、すごくお腹が膨れている画像がありますね。これは栄養失調が原因でアルブミンを含むタンパク質が減少し、腹水がたまっているから、と言われています。
ZTT/ TTT
ZTTは硫酸亜鉛混濁試験、TTTはチモール混濁試験ということのようです。
肝臓系の機能を見る検査らしいですが、一般臨床でこの値に注目することはほとんどないように思います。
★ビリルビン – T-Bil/ D Bil
これも基本的には肝臓、胆道系の機能を示す値です。
ビリルビンというのは2種類に分類でき、直接ビリルビン(= D Bil)と間接ビリルビンに分けられます。そして、この2種類を合計したものが総ビリルビン(=T Bil)ということになります。
この2つの違いなどを書き出すとかなりぐちゃぐちゃになるので、ここでは割愛しますが、ビリルビンの値が高くなると、肝臓の機能が悪い可能性があります。
★AST / ALT
肝臓の中に含まれる酵素、様々な要因で上がります。ASTはGOT、ALTはGPTとも呼ばれます。
肝臓の細胞のなかで合成される酵素で、肝逸脱酵素とも言われます。簡単にいうと肝細胞がダメージを受けると、値が上昇したりします。
肝炎の患者さんや、脂肪肝などの患者さんでは、この値が高くなることがあります。また薬剤性肝障害と言って、肝臓にダメージがでるような薬を飲んでいる場合にも、上昇することがあります。
肝臓の機能を表す大事な数値ですので、採血をする場合には、ほとんどの患者さんで検査されている指標かと思います。
★γGTP/ ALP
これらの値も採血項目の中では非常に重要です。γGTPはお酒を飲みすぎると上がりすぎると言われている項目ですね。
これらは肝・胆道系酵素と言われていて、肝障害のほか胆汁を排泄する経路に障害がある場合にも上昇します。
ですから、これらの数値が上がっている場合には、肝臓系に何かしら以上がある場合があります。
また、ALPは肝臓の他にも様々な臓器でみられる酵素であり、例えばがん細胞が骨に転移したような場合にも上昇がみられます。
★eGFR / クレアチニン
これら2つの項目は、姉妹・兄弟のようもので、どちらも腎臓の機能を表す、非常に重要な項目です。
eGFRは糸球体濾過量とよばれ、つまりは単位時間当たりに腎臓にどれくらいの血液が流れているか、ということを示します。腎臓の機能が悪くなると、eGFRは小さくなります。
一方でクレアチニンとは筋肉に含まれる成分で、腎臓の機能を把握するのに役立つ項目です。腎臓の機能が悪くなると、クレアチニンは上昇します。
腎臓の機能はすごく重要
腎臓の機能と言うのは、それ自体でもちろん重要です。
それ以上に、病院の中では患者さんの治療を行うときに、この腎臓の機能を気にしなければいけない場面がたくさんあります。
例えばCTやMRIで造影剤を使う場合には、腎臓に負担がかかってきます。腎臓の値によっては、腎臓への負担が大きいので検査ができないこともあります。
ですから、この腎臓の数値と言うのを必ず確認しておかなければなりません。
また様々な薬剤を使う場合にも、この腎臓の機能と言うのを見ておくのは必須です。
抗がん剤を投与する場合には腎臓の機能を必ず調べておく必要があります。
ロキソニンと呼ばれる広く使われている痛み止めも腎臓の機能を悪化させることが知られています。ですから、単なる痛み止めを使う場合にも、腎臓の機能をよく見ておく必要があるんですね。
腎臓の機能が悪くなり、生命に関わるレベルまで到達すると、血液透析が必要になります。
血液透析が始まると、週3回、1回3-4時間ほどの透析を一生受け続けなければならず、患者さんの生活スタイルは一変します
ですから、腎臓の機能を落とさないようにする、というのは非常に重要なわけです。
尿酸 – UA
痛風や尿管結石の原因になる項目です。この値が高いと、尿酸値を下げるようなお薬を処方されることでしょう。
ただ、臨床業務ではこれらの値にすごく注目を払うということは少ないような気がします。
尿酸値が高いからといって、痛風以外の治療方針が大きく変わるということはあまり経験しないですね。専門分野が違えば、すごくこの値に着目しているのかもしれませんが・・・。
ただし健康診断という点では、痛風になるか、ならないかを示す重要な値となります。
★ナトリウム、カリウム、カルシウム
これらは、血液中のミネラルの値を指しています。
口からご飯が食べれなくて、ずっと点滴をしている患者さんや、利尿剤などの薬を内服している患者さんでは、これらの値が大きく上下したりします。
特にカリウムの値は、高くなりすぎると不整脈を誘発し、命に関わることもあります。ですから、臨床医はカリウムの値は必ずみておかなければなりません。
家で口からご飯を食べているような場合には、消化管や腎臓がうまく調整してくれますので、極端に高い値になったり低い値になったりする事はありません。
ですから、職場の健康診断などで異常を示すことは滅多にないかと思います。
もし健康診断でこれらミネラルの値に異常があれば、治療が必要な病気である可能性が高いので、すぐに病院でより精密な検査を受ける必要がありそうです。
★CRP
シーアールピーと呼びます。この項目は一番最初に述べたのと同様に、体内の炎症の程度を示す項目です。
何もない健康な人であれば0に近いのですが、重篤な炎症がある患者さんだと20とか30近くまで上昇します。
一応医学的には賛否両論ある値なのですが、結局は他に白血球以外に炎症の指標となる良い値がないために、絶大な信頼を置かれている検査項目であります。
まとめ
というわけで、私自身の経験や、カンファレンスで話題に上る項目などを元に、血液データのうち、臨床を行う上で重要なものを中心に解説してきました。
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