法医学・司法解剖の概要について語る

医学部の専門の授業に入ると、法医学と言う分野も学んでいくことになります。この法医学と言う分野は、大きく分類すると社会医学と言うようなものに分類されます。

法医学とは、法律に関わる医学で司法解剖などを行う

法医学とは、文字通りに法律に関わる医学です。簡単に言えば、死亡した人間の死因を特定するための医学、といっても良いでしょうか。

犯罪の可能性がある遺体が見つかった場合には、警察による捜査が行われます。遺体の死亡原因を特定するために行われるのが、司法解剖です。

法医解剖の現場は厳しい環境である

法医学のメインである、司法解剖は、すごく厳しい現場です。私も数回ほど、法医解剖に同席したことがあります。

当たり前ですが、解剖される遺体は発見されて、司法解剖される現場に運ばれるまでに、死後時間が経っています。2、3時間程度であればたいしたことはないのですが、大抵の場合は数日単位で経過しています。

人間の死体は、一言で言えば生肉と一緒です。ですから時間が経つにつれ腐敗が進み、ニュースなどで見聞きしたことがあるかもしれませんが、強烈な異臭を放つことになります。

冬場であれば遺体の腐敗はあまり進まないので、困ることは無いのですが、夏場であればどんどん腐敗が進むので、解剖が行われる部屋の中は異様な匂いで満たされることになります。

解剖の準備ができて部屋に入っていくわけですが、すでに前室から異様な匂いがするわけです。そしていざ遺体と対面すると、無数の虫が集って遺体に群がっている、とうようなこともよくあるそうです。

実際の司法解剖の手順

私も何回か司法解剖を見学させていただいたことがあります。

まずは解剖を担当する医師と助手が、遺体の体表を観察しながら、いろいろと所見を述べていきます。

腐敗の程度の進み具合からは、死後何日経っているか、ということがわかりますし、刺し傷や首を締めた痕跡があれば、これらが死亡原因に深く関わっている可能性があります。アメリカなんかでは、銃創がよくみられるなんて話も聞きます。

例えば首を締める、という行為一つとっても、首の前側に締められた痕があるのか、それとも首の後ろ側に締められた痕があるのかによって、この遺体が前から首を締められたのか、後ろからなのか、ということが分かってきます。

首の後ろ側に締めた痕があるとすれば、ちょっと自殺とは考えにくいですよね。首つりをした場合は、大抵首の前側に締めた痕ができるはずです。

また、遺体のゆび先にロープや紐の痕がくっきり残っている場合、これも自殺の可能性は低くなるでしょう。自殺する人間がロープと首の間に指を入れたりはまずしないでしょうか。

というように、体の外側を観察するだけでも、随分いろんなことが分かります。

次の段階では、体にメスを入れて各臓器を切り出していき、内部の所見などを確認します。体の内部も、重要な情報を与えてくれます。

腎臓、肝臓、小腸や大腸、胃、肺など、体内の主要臓器は全て見ていくことになります。

例えば火災現場で亡くなっていた遺体があったとします。もし肺や気管の中に灰などの成分が付着していれば、その遺体は火事が起きたときには呼吸していたと言う証拠になります。

一方で火災現場の真ん中にいながら、肺などの呼吸器系に全く灰が付いていないような場合には、これは火災が起きたときにすでに呼吸していなかったと言うことになります。ゆえに火災が起きた時には、すでに死亡していた可能性がある、ということになります。

最後には脳を解剖するために、ドリルを取り出してきて、頭蓋骨を外します。ドリルで頭蓋骨をきっている様子は、まさにこの世のものではないような感じでした。

こうして解剖が終わるまでは、おおよそ2時間くらい、といったとこでしょうか。

病理解剖とは全く違う

Wikipediaには「やることは病理解剖と全く変わらず」とありますが、これは必ずしも正しくありません。

病理解剖は、細胞を顕微鏡でみることを専門とする病理医が、病院の中で死亡した患者の病死の原因を突き止めるための解剖です。したがって、病理解剖で解剖される遺体は、病院の中で死亡した患者でであり、目的は病死の原因を探ること、と決まっています。

多くの場合は、死後24時間も経たないうちに解剖が始まりますし、またそれまでは病院の中に安置されているので、ご遺体は非常に綺麗です。司法解剖のように解剖体が腐敗しているということもまずありません。

したがって、病理解剖では体表に刺し傷や、首を締められた痕跡というのもありません。むしろ病院に入院しているにも関わらずそのような傷があったとすれば、即刑事事件になってしまいます。

ゆえに病理医は、司法解剖で行われるように遺体の体表や外見を観察することはあまりなく、どちらかというと体の内部に原因を求めていくことになります。体の外見を観察するとしても、せいぜい浮腫があるかとか、眼に黄疸があるか、といった程度でしょうか。

法医学に携わる医師は不足している

法医学者は全国でも圧倒的に不足しています。基礎研究者が不足している現在の医学部の事情にあって、法医学と言うのはさらに人材不足のようです。

法医学に携わるためには、医学部を卒業した後、大学医学部の法医学教室で学ぶのが一般的でしょうか。もちろん初期研修の臨床医を数年経験してから、でも十分遅くはありません。

医学部の授業で法医学に触れる時間というのは、基礎の授業である生化学や薬理学と比べても非常に短いですし、国家試験で出される範囲もかなり限られています。学生にとっては少し距離のある学問ということでしょうか。

また法医学と言う分野は、イメージだけで述べるならば、暗くてどこかいいじめじめしたイメージがあります。事件、遺体を扱うというのは非常に重要ですが、どうしても明るいイメージとは離れていますね。

以上のような理由で法医学者の担い手が少なくなっているのでしょうか。

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先生まだ医局辞めてないんですか?

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