第21回・日本医師会「心に残る体験記」から思うこと。過重労働の影がみえる

日本医師会のホームページには、「心に残る医療」体験記コンクールの優秀作品が公開されています。

趣旨はというと、以下のようなことになっています。

※本コンクールは、2017年度より「『生命(いのち)を見つめる』フォトコンテスト」と統合、リニューアルし、「生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー」として開催されています。

心に残る医療体験記コンクール

つまりは病院がらみ、医者がらみ、看護師がらみならテーマはなんでもOKといったところでしょうか。

ここで掲載されいてる作文について、非常に考えさせられる文章がありましたので、ご紹介したいと思います。

ちなみに2017年度で35回目とのことですので、今回ご紹介する第21回のコンクール作品は14年前、2003年くらいのことになるかと思います。

「ぼくがお医者さんになったら」

ぼくは幼いころ、お父さんと遊んだ記憶がない。晩ごはんを、一緒に食べた記憶もない。ぼくのお父さんは、女の人の病気を治したり、新しい命の誕生を助ける、産婦人科の医者だ。

(中略)

医者になってから体重は十キロも減ったそうだ。お昼ご飯も食べられないことが多いらしい。やっと口に入れられるのは、売店の残り物のおにぎりや、パンだけだそうだ。

日曜日も休みがない。夜遅く帰ってきたと思ったら、夜明け前に呼ばれてとんでいく。スーパーマンのようだ。

お母さんが感心するのは、朝起こしてもなかなか起きないのに、夜中のワンコールで飛び起きるところだ。すごいと、よく言っている。

夏休みだって、海外とかに行きたくても、呼ばれたらすぐかけつけられるように箱根どまりだ。ここ数年、旅行も行っていない、こんな生活がいいのかな。

(中略)

やっぱり、僕の目標は、お父さんだ。

「ぼくがお医者さんになったら」:日本医師会

産婦人科医を父に持つ、子供の作文です。

ホームページにも掲載されているこの作品は、優秀賞に選ばれています。

長時間労働を賛美・容認する日本医師会

この作文自体は小学生が書いた純粋無垢な文章ですから、その内容等に関して批判をするつもりは全くありません。

父親である医師の働き方に関して、純粋に思うこと、感じることを書いた子供のみずみずしい作文です。

社会のため、そして家族のために必死に働く理想としての父親を示した文章かもしれません。

一方で読む側・審査する側の日本医師会は、このような父親としての医師の長時間労働を憂う家族からの警鐘に対して、呑気に優秀賞なんて与えてしまっています。

2020年に近い時代に読む人間からすると、当時の産婦人科医は、家庭を犠牲にして命を削って働いてこそ理想の産婦人科医である、というような固定概念があったことが伺えます。

このような文章に優秀賞を与えるということは、医師の長時間労働を容認し、それを憂う子供の純粋な感情を善として考えていたのでしょう。

病院で働く職員がうつ病になるケースは多い。肉体的にも精神的にも辛い

2018年3月8日

その後に起こったこと。過重労働による医療崩壊

2003年というと、ちょうど現場では医師の過重労働、長時間労働が問題になり始めた時期かと思います。

新臨床研修制度が始まって数年たち、大学病院で研修する医学部卒業生が減ることによって、急性期病院に勤務する医師の負担は増える傾向にありました。

そんな2000年代半ばには、全国的にも話題となった2つの産婦人科関連のアクシデントが起きます。

福島県立大野病院産婦人科事件大淀病院事件はいずれも医療訴訟にまで至った有名な事件ですが、背景には現場で働く医師の過重労働、人手不足といった問題がありました。

福島県立大野病院産科医逮捕事件(ふくしまけんりつおおのびょういんさんかいたいほじけん)は、2004年12月17日に福島県双葉郡大熊町の福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死亡したことにつき、手術を執刀した同院産婦人科の医師1人が業務上過失致死と医師法違反の容疑で2006年2月18日に逮捕、翌月に起訴された事件である。

 

大淀町立大淀病院事件(おおよどちょうりつおおよどびょういんじけん)とは、2006年8月7日に奈良県大淀町の町立大淀病院で出産中だった32歳の女性が脳出血をおこし、転送先の病院で出産後に死亡した事件。

及び約2か月後にそれを「スクープ」した毎日新聞の報道をうけて巻き起こった社会的議論、混乱のこと。

いずれの事件も、医師個人の責任に帰するにはあまりにも無理のある事件です。

2003年に日本医師会が呑気に、長時間労働をする父親を憂う作文に優秀賞を与えた数年後に、このような医療界を揺るがす問題が起きているのです。

医師会がすべきであった対応

本来であれば、日本医師会はこのような過重労働の医師を持つ家庭からのSOSに対して、職業団体として警鐘を鳴らし、労働環境の改善を目指すべきでした。

この男性医師が勤務する病院を特定し、労働基準監督署に通告することによって、その違法性を告発するくらいの気概があっても間違っていないかったかとおもいます。

心の残る体験記ではなくて、過重労働の一端を示した内部告発と捉えるべきだったのです。

しかし医師会はその後もなんら行動を起こすことなく、医師の労働環境には大きな変化はありませんでした。

今後に向けて。求められること

2015年ごろからは、ようやく医師の長時間労働も問題視されはじめ、医師にも人間らしい生活を求めても良い、というような風潮が醸成されてきました。

実際のところは、24時間365日の患者対応を必要とする病院に勤務しているわけですから、当直明けの勤務や、土日祝日勤務を完全になくすのは難しいでしょう。

一方で、病棟に出てきたような、長時間労働を黙認することはあってはらならないと思いますし、間違っても医師の利益団体で日本医師会が、それらを賛美するようなことがあってはならないと思うわけです。

医者は長時間労働や当直で休めない。病院はブラック企業である

2018年1月5日

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