【医師の視点】医学部の基礎研究の現状と研究医の給料。基礎研究者は割に合わない

昨今は、基礎研究を志す学生の減少が問題になっています。

各大学では、基礎研究に進む医学の学生を少しでも増やすため、色々な試みを行なっています。

盛んに基礎研究のおもしろさをアピールしたり、MD-PhDコースと呼ばれるような、医学部卒業後すぐに基礎研究に入れるようなコースを開設している大学もあります。

また、基礎研究の道に進む学生にインセンティブを与えるために、これらの学生については、大学院での授業料を無償にするという方針の大学もあるようです。

なぜ基礎研究の従事者にこのような恵まれた環境を用意するのかは、日本の医学部における基礎研究が厳しい状況にあるからですね。

医学部における基礎研究の現状

まずは医学部における基礎研究の現状を考えます。

全体的には年々厳しくなりつつあります。

大学に交付される研究費の削減

少子高齢化に伴う財政規律の悪化に伴って、大学に支払われる政府の補助金、研究費は年々減少傾向にあります。

いわゆる科研費ですが、これらの金額が減らされることによって、研究を遂行するのに必要なスタッフを雇えなかったり、必要な研究物品を購入できないと言う事態も発生しています。

もはや日本の一部の実績ある研究室以外からは、インパクトのある研究を残せなくなっていますし、一流大学も例外ではありません。

減少する研究費を取り合いながら素晴らしい研究成果を挙げ、そして実績を残して研究費を獲得しないと研究は継続できないです。

もはや自転車操業のような状況に陥りつつあり、基礎研究にとっては冬の時代なのです。

基礎研究の高度化

研究費が減り続ける一方で、現在の基礎研究は非常に高度化しており、一つの実験をするにも多額の資金が必要です。

どれだけのお金をつぎ込んだか、どれだけの人を使ったかという、資本の効果がますます重要性を増しつつあります。

いくら素晴らしい発想を持っていたとしても、ヒト・モノ・カネがないと成果が出せない、そんな時代に突入しています。

製薬会社が新薬を開発する場合には、数百億円単位の投資が必要になるといわれていますが、額は違えど同じような状況が基礎研究の分野にもあるのです。

医学部出身のアドバンテージが限られてくる

基礎研究の高度化に従って、医学部出身であることのアドバンテージも徐々に少なくなりつつあります。

一般学部出身の研究者の場合

理学部や農学部出身の理系の学生であれば、学部生時代に20歳の頃から研究室に出入りすることによって、基礎研究に必要な様々な知識や技術を身に付けていきます。

それに彼らはたくさん研究して、たくさん論文を書かなければ大学内でのポストを得られず、日々食べていくことができません。

生きるために仕事をしているのです。

医師の場合

一方で医学部出身の研究者の場合は、大学を卒業したする頃は最短でも24歳、初期研修を終えた後であれば26歳ですから、基礎研究をスタートさせるには若干遅れがあります

それに一旦臨床経験してから大学院に入って基礎研究を始めるとなると、研究のスタートは30歳前後になってしまいますから、あまりにも遅すぎます。

また医師免許を持った研究者の場合、当直アルバイトなどをこなせば食べていくことには困りません。

金銭的に大きなアドバンテージがあり、研究へのモチベーションでも一般理系学部と勝負するにはそれなりの覚悟が必要です。

ある一般学部出身で医学部で研究している先生は

本当に研究が好きでないと医学部出身者は研究できないでしょう。だって普通に働いた方が待遇が良いのだから

と自嘲気味に答えておられました。

このような状況考えると、もはや医者が来基礎研究をする時代では無いのかもしれません。

研究医の給料が安すぎる

また研究医の給料があまりにも安いことも問題です。

基礎研究室の教授にでもなれば、年収は1000万円は超えてくるでしょうが、積み重ねた実績や業績に比べればあまりにも安すぎるのが現状です。

医学部を卒業して、ひかれたレールに乗っている臨床医であれば、数年の経験さえ積めば年収1000万円には容易に到達してしまいます。

一方で医師免許を持っていたとしても、基礎研究者として大学医学部に勤務している教授以下の役職であれば、年収1000万円には届かないのが大半でしょう。

給与面でも基礎研究を行う人材は恵まれていないといってよいでしょう。

大きな業績を残した研究者には、年俸数千万円を用意するなどの、インセンティブも必要かと思います。

研究医枠という発想

医学部入試では、卒業後に地方での勤務を一定期間義務付ける地域枠や、研究医になることを求める研究医枠も新設されてきているようです。

地域枠は、勤務地を強制する引き換えに学費を負担するという学生、大学側共にウィンウィンの関係があると思うのですが、研究医枠にはどれほど実効性があるのか疑問です。

そもそも基礎医学の研究は医学に対する興味・関心や臨床医学における限界を感じてはじめるものだと思うのです。

この研究医枠で入ってくる学生(高校生)には確固たる興味・関心があることを担保できているんでしょうか。

医学研究と言えば聞こえはいいですが、労働時間は長く、生物を扱うために長期休暇は取れず、おまけに待遇(給料)は医学部の卒業生の中では最低レベルです。

果たしてこのような現状を知って入学する高校生がとれだけいるのか。現実を知って絶望してしまわないか心配です。

【医師の視点】医師が行う留学についての概要。どのようなルートがあるか解説

2017年11月5日

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