病院で勤務していると、誰でも必ずやインシデントと呼ばれるようなミスに遭遇することになります。
インシデントとはいわば小さなミスといったところでしょうか。
具体的には、患者さんに害のない範囲のミス、または害があってもごく軽度なものを言います。
そのようなインシデントが起きた場合の、病院内の対応について考察してみましょう。
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病院の中におけるインシデントの例
たとえば、Aさんと思って診察していた患者が、実はBさんだった、診察の途中でそれに気づいたといような場合はこれはインシデントになります。
この場合はAさんにとっては、自分の情報がBさんに知られることになった訳ですし、Bさんにとっては、Aさんと間違われていろいろ話を聞かれた訳ですから、これは被害ですね。
ただ被害が生命に関わるような重大なものであるかというと、そうではありません。
もちろんAさんとBさんが深刻な利害関係にあれば話はかわってくるのでしょうが、 別に患者さんに実害があったわけではないですし、謝れば済むものです。
このように、インシデントとは大抵患者さんにほとんど害のないものであることが大多数です。
しかし、中には深刻な被害を及ぼしてしまう事故もありますから、十分注意が必要です。
医療事故とは、患者さんに被害が生じたミスである
今度は別に、AさんとBさんを間違って手術してしまった場合、これは医療ミスです。
たとえばAさんが右の腎臓癌、Bさんが左の腎臓癌であったとします。
Aさんに手術するとなると、当然病気のある右の腎臓を摘出する訳ですが、Bさんだと思い込んで、健康なはずの左の腎臓をとってしまうと、これはもう大問題です。
Aさんに残るのは病気の右の腎臓癌であって、いずれ摘出しなければならないですね。つまりAさんは一生人工透析を続けなければならない、ということになってしまいます。まさに医療事故です。
「そんな右と左を間違うことなんてあるかよ〜」と思いきや、医療現場では結構あるんです。実はこのような手術時の左右の取り違えというのはしばしば発生しています。
もちろん外科医のみならず、術場のスタッフ全員が声を掛け合って、患者の名前や予定手術などの情報を共有しているのですが、それでもミスは起きてしまいます。
医療関係者にとって、右と左はすごく重要なのです。
手術部位を左右取り違えて実施してしまった―。
このような事例が、2010年12月から17年5月までに26件報告され、うち11件は脳神経外科手術であることが、日本医療機能評価機構の調べで明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
脳神経外科手術においては、「手術準備の直前に、複数の医療スタッフで画像所見と手術部位を照合する」「執刀直前に、医師が声に出した手術部位と執刀予定の部位と手術申込書を照合する」よう、機構は呼びかけています。
メディウォッチ 2017.7.18
医療事故の背景には、100件のインシデントがある
よく病院の中の講演会ではなされるのは、大きなひとつの医療ミスの背後には、小さなミスであるインシデントが何十倍も隠れているようです。
したがってインシデントの起こる可能性をどんどん低くすることによって、重大な結果に繋がる医療ミスを防げるという考えにもつながります。
患者さんに実害がない小さなミスというのは、ほとんどすべての医療関係者が経験したことがあることだと思います。
人間は機械と違って必ずミスをする失敗をする生き物ですから、そのような小さなミスをどのようにして防ぐかということが重要になってくるわけです。
発生したミスに対しては真摯に向き合い、その原因を十分に検証し、同じミスを二度と起こさないようにしていく解決策が求められます。
インシデントへの対応方法
病院の中ではインシデントと呼ばれるミスに対して、対応する部署やチームが存在しています。
一般的な考え方としては、ミスを犯した人間を一方的に悪者にするのではなく、これはシステムの問題でミスが起こったものだと解釈します。
例えば手術における左右の取り違いというのも、どんなに確認しても起こり得るわけです。
同姓同名、誕生日も同じ、性別も同じ患者がいたとしたら、これは口頭確認だけでは二人を区別するのはほぼ不可能です。
ですから、病院として、システムとしてどのように再発を防ぐかということを考えていく必要があるのです。
インシデントレポートの作成が必要である
どこの病院にも、インシデントレポートと呼ばれる、ミスをした状況原因等について報告書を提出する制度があります。
この報告書を持ってして、よりミスのない病院を作り上げていこうという趣旨です。
例えば個人の記憶や認識が原因でミスが起こってしまった場合、個人の責任にするのは、あまり意味がありません。
忘れないようにするとか、左右を間違えないようにするという解決策は、根本的な解決策ではないわけです。
そうではなく、仮に忘れたとしてもどのようにして間違えないようにするか、また左と右を間違えないようにするためにはどうしたら良いのか、ということを制度として提案するのが、本当の解決策と言うことになります。
ただしレポート書くのも手間である
ただし病院職員が経験したインシデント全て報告するべきかどうかということについては、難しい現実もあります。
もちろん病院の決まりでは、経験したインシデントは、すべてインシデントレポートとして提出することが求められています。
ですから気合の入ったインシデントレポートを書くには、残業が必要となってきますし、レポートを書くからと言って業務が軽減されるわけではありません。
残業して自分のミスをさらけ出すなんて、なんとなく割合わない気がしますよね。
もちろん今後同じようなミスを起こさないために、報告書を提出することが必要になってくるわけですが、そのようなレポートを積極的に書くような環境が揃っていないのではないか、と感じることがあります。
素早い対応・患者への謝罪も必要
さて、インシデントのレポートの作成も大切ですが、何より患者本人への謝罪も大切です。
こちらのミスはどんな理由があろうとも素直に認め、謝罪することが大切です。
患者さんには実害がなかったとしても、素早い対応を行うことで、今後医療を行う上で必要な信頼関係を醸成することができるのです。
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