神奈川がんセンター、医師が次々退職の異常事態…重粒子線治療が存続の危機

神奈川県立がんセンターで、放射線治療科から医師が退職するという記事です。記事では、重粒子線治療や診療科の人事について述べられています。

「病院をガタガタにした元凶は黒岩祐治神奈川県知事」と言い切るのは、数年前まで神奈川県立がんセンター(横浜市)に勤めていた医師。

この人物のもとには、今でも同センターに在籍する医師たちから不満の声が次々に寄せられているという。そんななかで、同センターの経営を揺るがす大きな問題が起きていた。

神奈川県立がんセンターの目玉ともいうべき重粒子線治療を担う放射線治療科の医師が次々に退職していることがわかったのは、去る12月中旬だった。

2017年度の初めには非常勤の重粒子線治療センター長のほかに、常勤医6人が在籍していた。ところが夏に1人、12月末に2人が退職。さらに2人が今月末で退職することを伝えており、2月以降、常勤医は1人しかいなくなるという緊急事態に追い込まれた。

Business journal  2018.1.23

ちなみに重粒子線治療は通常の放射線治療よりも副作用を少なく、かつ治療効果を高めることができるとされる次世代の治療法で、日本全国の施設で徐々に数が増えています。

医師退職にあたって

がん診療における放射線治療の役割

重粒子線と呼ばれる新しい技術の前に、通常の放射線治療はどうなってしまのか、非常に厳しい状況であると思います。

放射線治療は手術や抗がん剤治療と並んで、がん診療にとっては必須と言っても良い治療法です。

放射線治療はもちろん、がんを治すために行われることもあります。食道がんや頭頸部のがん、肺癌、前立腺癌などでは、がんを治すために積極的に放射線治療が行われています。

また、一方でがんが骨などに転移した場合は、痛み止めでもコントロールできないほどの、強い痛みに悩むことになります。

そのような場合にも放射線治療を行なって、痛みを緩和する治療が行われるわけです。

現在の日本では、がん患者のおおよそ3-4割程度に放射線治療が行われているとされています。これでも欧米の割合と比べると、まだまだ低い割合なのです。

常勤医一人ではとても患者対応ができない

この医師退職のニュースは、神奈川県立がんセンターにとっても死活問題でしょう。

がんセンターといえば、まさに患者のほとんどはがん患者さんです。そのがん患者さんの半分近くの患者さんに放射線治療を行うわけですから、さすがに常勤医一人では対応できないことが予想されます。

毎日のようにたくさんの患者さんを診察して、放射線治療の計画をたてて、というのはまず無理だと思います。

つまり、神奈川県内でも有数のがんセンターにやってきた患者さんが、本来必要とされる医療を受けることができない、という困難な状況になるわけです。

医師が退職した場合の対処方法

いろんなパターンがあります。地方の病院などで誰も働きたくないような病院であれば、そのまま休診、診療科閉鎖になることが多いように思います。

ただ、神奈川県立がんセンターのような大規模な病院であれば、多かれ少なかれ他のところから医師を集めてくることになるでしょう。

神奈川がんセンターというブランド病院ですから、どこかの大学医局が関連病院として医師を派遣してくる可能性もあります。

そこで医師確保のニュースが!!

神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で医師が相次いで退職の意向を示し、重粒子線治療施設が稼働停止する恐れがあった問題で県は24日、医師が確保できたと発表した。

3月末までは治療が継続できる見通しで、黒岩祐治知事は「最悪の事態を逃れることができた。県民の命を守ることができて安堵(あんど)している」と述べた。

放射線治療科の常勤医がそろって退職するという騒動があった神奈川県立がんセンターですが、どうやら常勤医を確保できるようですね。

ただし、これで「県民の命を守れるようになる」かどうかは、まだ分からないでしょう。問題となってくるのは、果たして以前のような医療の質を担保できるか、ということですね。

県立がんセンターは忙しい。医師にも高度な技量が要求される

神奈川県立がんセンターともなれば、まず業務量が膨大な上、県内の一般病院では治療の難しい症例の診察にも当たる必要があります。これは放射線治療科に限ったことではありません。

ですから医師の経験とか、技術というのも重要になってくるわけです。求人サイトで応募があったので採用しました、とはいかないのが医師の採用です。

がんセンターという高度な技量と経験が要求される勤務先に加えて、このがんセンターでは重粒子治療施設も併設されています。

果たして、医師が集団退職するような病院に、経験と技術と、おまけに日本ではようやく広がり始めた重粒子治療にも精通した医師が、果たして勤務するのだろうか、というのが率直な感想です。

言い換えれば、プロ野球のスター選手が、潰れかけの2軍に移籍するようなものですからね。現実的にはそうとう難しいのではないかと推察します。

医師の働きやすい職場づくりが重要

 一方、医師の退職理由の調査委員会も同日、報告書を発表。長年勤務していた医師が外部機関への研修を命じられて退職し、その医師に師事していた他の医師が相次いで退職を決意したことや、医師間でパワーハラスメントが発生していたことが明らかになった。

神奈川県立がんセンターのような公的病院にはしばしば起こるトラブルなのですが、事務方が医師の人事や採用について、あまり介入しない方が良いかと思います。

医師の人事というのは、事務側の意向以上に、大学病院や医局の権限で動いていることが多いです。

つまり、A病院の部長職は伝統的にB大学の医局出身者とする、その見返りにB大学はA病院に医師を派遣する、といったような暗黙の了解です。

このような微妙なバランスの世界に事務方が出現してきて、人事について口を出し始めると、微妙なバランスで成り立っていた人事が、すべて崩れてしまうわけですね。

今回もそのような内情に無知な部外者が引き起こした悲劇のような気がしています。

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