今やがんをはじめとしてあらゆる病気の画像診断には欠かせないCT検査。
このCT検査の結果を報告する報告書を担当医がみていなかったために、患者への治療が遅れてしまったというニュースが相次いでいます。
このようなCT初見の見落としはなぜ起きてしまうのでしょう。そして防ぐ方法はあるのでしょうか。
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千葉大病院 なぜ起きたのか CT報告書の見落とし
コンピューター断層撮影(CT)の報告書の見落としで、がん患者2人が命を落とした。
発覚のきっかけは昨年7月。50代の男性が他の病院で肺がんの疑いがあると告げられ、千葉大病院で検査を受けた。
約1年前にも同病院でCT検査を受けていた。放射線診断専門医が当時作成した画像診断報告書を医師が確認したところ、「肺がんの疑いがある」と書かれていた。
担当医が記載を見落とし、専門分野の首や頭しか注目していなかったことが原因だった。さらに同様のミスが見つかったため、同11月に院内調査を始めた。
毎日新聞 2018.6.8
このニュースは非常にショッキングですね。
1年前にすでに肺癌の可能性が指摘されていたにも関わらず、十分な精査がなされなかったために、悪い経過になってしまいました。
救えたかもしれない命が失われた事実は、重く受け止めなければなりません。
CT検査報告書はなぜ作成されるか
画像診断のスタンダードとなっているCT検査なのですが、千葉大くらいの大きな病院だと1日に100件以上のCT検査が行われていることでしょう。
もちろんCTの機械は3-4台以上はあるものと推察されます。
CT検査で得られる情報は膨大である
CT検査は1960-70年代に登場してきた新しい画像診断技術なのですが、科学技術の発達によって驚くほどの進化を遂げてきました。
今や一人の患者さんの画像撮影にかかる時間はせいぜい長くても5分くらいですし、その5分だけですごくたくさんの情報を得ることができるようになっています。
そのように撮像されたCT検査画像を読み解くには、専門的な知識と経験が必要です。
例えば肝臓を専門にする医者であれば、肝臓のCT画像のことはわかっても、その他の肺とか食道に関してはあまり深いところまでわからないのです。
それに何より医師は日々の外来や病棟で忙しく、とても頭の先からつま先までのCT画像の全てを把握する時間はありません。
千葉大のニュースでも、担当医が専門領域以外を見ていなかったことが指摘されています。
医者だからといって、画像検査の隅々まで見る時間的な余裕もなければ、知識も不足しているのが現状です。
放射線診断医の役割
そのような不足を補う目的で、CT画像などを専門に読む・見る医師が存在します。
それが放射線診断医とよばれる医師なのです。
普段は患者さんと接することはない放射線診断医なのですが、病院の奥まったところでひたすら画像だけを見ています。
放射線診断医は病院で働いしている医師の手助けとなることから、Dr’s Dr、つまり「医者にとっての医者」、というふうに呼ばれたりもします。
そのような専門的な医師が、CT画像検査の詳細な結果を報告する手段として、CT検査報告書が作成されます。
CT検査報告書の実際
CT検査報告書は別名読影レポートとも呼ばれますが、大抵はCT検査の結果を記したA4 1枚に収まるくらいの文量で作成されます。
以前は病院内で紙媒体でやり取りされていましたが、電子カルテ時代になってからはすべて病院内のネットワーク上で行われるようになりました。
CT検査報告書では、CT検査で撮影した範囲の臓器や異常所見について報告されます。
肺癌の手術後で肺癌の再発がないかどうか、を調べるためのCT検査であっても、隅々まで画像を見た放射線診断医によって、偶然に肝臓や膵臓のがんの疑いが報告されることはしばしばあります。
今回のケースでも、偶然に発見されたがんについて、担当医が見落としていたことが指摘されています。
このようにCT検査報告書は非常に重要な意味をもち、この報告書の内容によって治療方針が180度変わってしまうことは決して珍しくありません。
CT検査報告書を読まないことはあるか?
そんな重要な検査報告書を放置することは、通常ならばあり得ないことです。
もちろん検査報告書が作成されても、担当医の目に入らなければ意味ないですから、なるべく見落しがないように様々な工夫が試みられてきました。
ほとんどの電子カルテシステムの場合には、読影レポートが完成し閲覧できるようになると、検査を依頼した担当医に電子カルテ上で連絡が行くようになっています。
つまりは「検査報告書が完成しましたよ」みたいな通知がなされるわけです。
その連絡が来たのを確認して、CT検査をオーダーした担当医が、初めて読影レポートを見ることになるのです。
したがってCT検査報告書を担当医が全く読まない、ことはほとんどないといって良いでしょう。
大きな問題点はある
しかしながら読影レポートは長いものでは20行以上にわたって書かれていることもあります。
そしてそのレポートの文章の中に、すごく重要なことがポンッと書かれていたりするのです。
このように長々したCTレポートを一字一句を見落とさないようにくまなく読む事は、忙しい日々の臨床の中では必ずしも十分ではありません。
本当に見落としがないように読影レポートを読もうとすると、手術をしたり抗がん剤治療をする位の集中力を持って読影レポートに向き合わなければなりません。
読影レポートが完成したことは担当医に伝えられますが、たとえばそのレポートにがんの疑いがある、と言う事までは通知されません。
あくまでそのレポートを読んだ担当医が、全文を集中して読み込んで、見つけるしかないのです
日々の忙しい業務の中で、通知される読影レポートを見落としなく読むのは、かなり難しいといえそうです。
CT読影レポートの大きな問題点は、検査の数があまりにも多く、そして読影レポートの文章が比較的長いがゆえに、重要な情報が埋もれてしまう可能性があるのです。
CT検査報告書の見落としは実は多い
したがって、冒頭の千葉大学のような例は、表に出てこないだけで数多くあるといえそうです。
私自身も読影レポートの重要な部分を見落として、同僚に指摘されたことはあります。
また他科の先生が見落としているレポートの記載について、その先生に報告したことは何度もあります。
実際に見落としが判明し、患者さんに謝罪し和解している医師もいます。
ある放射線科の先生は
「こんなことは世にゴマンとあるのに、どうしていまになって問題になっているのだろう」
とお話しされていました。
決して最近になって出てきた問題ではなく、随分前からあった問題なのです。
冒頭の千葉大学の例は、決して珍しいことではありません。
CT検査報告書の見落としをなくすためにはどうすれば良いか
このような報告書の見落としを解決する方法は、がんの疑いと書かれた報告書については、必ず担当医にその内容について連絡が行くようにシステムを整備するしかありません。
例えば読影レポートでがんの疑いの記載があるような場合には、担当医だけでなくその患者さんのカルテを開いた人全員が認識できるように、患者さんのカルテの一部に赤文字で強制的に記載するとか、
読影レポートを作成した放射線診断医が、担当医が個別で電話をかけるなど、絶対に情報の伝達が行われるようなシステムを構築するしかありません
読影レポートの見落としを、担当医のミスと断罪するのはすごく簡単なことです。
しかしその背景にある問題を無視していては、また同じような悲劇が起きるのは間違い無いでしょう。
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