医者が使う経過観察という言葉の意味。決して放置しているわけではない

経過観察。これって意外と病院でしか使わない単語かもしれませんね。

医者として働く限りは、健康診断書の「要経過観察」とか、「現在は経過観察中」とか、「もう少し経過を見てみましょう」とか、同じような意味の単語を1日5回くらい使っているかもしれません。

何度も経過観察という言葉を使っていると、自分自身もよくわからなくなってきまますね。

一旦ここで立ち止まって、経過観察の意味について考えてみたいと思います。

経過観察=様子を見ることである

経過観察とは、文字通り経過を観察する・だまって様子を見るということです。

治療が一段落して病気が悪くなっていないかどうか、なんらかの症状はあるが原因がはっきりしない場合には、慎重に様子を見続けるということを意味します。

健康診断の結果に書いてあるような要経過観察というのは、「悪くならないか、定期的に様子を見る必要がありますよ」と言った感じでしょうか。

様子を見るとか、ほっとくとなるとマイナスイメージの言葉のように思いますが、実際はそうではありません。

別の意味に言い換えて見ると、経過観察とは特に頑張って、早急に対処する必要がない状況、ということができるかもしれません。

がんの経過観察の場合

例えばがん患者さんで一連の治療が終了して、画像検査などを行っても明らかな再発が見られないような場合には、あえて治療をする必要はないと判断されます。

また血液中のがんの勢いを示す腫瘍マーカーが上昇傾向で、もしかしたら再発があるかもしれない状況であっても、明らかにその証拠がない場合には、これまた経過観察することになります。

ただし治療が手遅れになっては患者さんの生命に関わりますから、どこまで経過観察で良いのか、どこからは積極的に治療に介入すべきか、そのあたりの判断は非常に高度な経験と知識が求められます。

実際に外来に紹介されてくる患者さんの中にも、「経過観察しないでもっと早く治療しておけばなぁ・・・」と思うこともあります。

ただしこれは結果論であって、与えられた情報だけで最善の判断をしていたとしても、思わぬ結果に繋がってしまう場合もあります。

医学とは科学の一つであるわけですが、人間の体の変化や症状はすべて医学的に説明できるものではありませんから、仕方ないんですね。

3ヶ月後に、1年後に振り返ってみても正しい判断をし続けるのは、難しいものなのです。

新たな症状が出てきた場合

新たな症状が出てきた場合も同様です。経過観察することは少なくありません。

症状がひどく重くその原因がはっきりしている場合には、経過観察なんてしていないで、早急に原因に対する治療が求められます。

例えば胃から出血しているので貧血になっている場合には、悠長に経過観察なんていってられません。

内視鏡を口から入れたりなんかして、血が出ているところを止めにいかなければならないですよね。

ただし外来患者さんや、入院患者さんで原因がよくわからない症状を訴える方はかなり多かったります。

例えばお腹の治療をしているのに、頭が痛くなったりとか、またお腹の治療をしているのに、腕が痛くなってきたような場合です。

医師も一生懸命にいろいろと考えたりすることはありますが、これらの関係ないような症状の場合は、はっきりとした原因がわからないことは多いですね。

原因がわからなければ対処のしようはありませんから、患者さんがすごく困っていない限りはしばしば経過観察されます。

このような場合には経過観察を行い、症状が辛くなってきたときに他の診療科に相談するとか、追加で検査をしてみるとか、そのような対応とっていくことになります。

責任放棄のようにも聞こえてしまいますが、医療者側としてもやりようがないですからね。。。

自戒をこめて・・・安易な経過観察は禁物

ただしこの経過観察と言うのは、症状の原因が分からないからといって安易に使って良い言葉ではありません。

以前私のところにがんの再発があると紹介されてきた患者さんでも、がんの再発があるかどうか判然としない、と言う理由で1年近く経過観察されていた方がいました。

その1年前の画像を見直して見ると、実は1年前にすでに病気の再発を疑う所見があり、現時点ではすでに治療の選択肢が限られるほど病気が大きくなっていた、という事例がありました。

もちろん当時の医師に判断の誤りがあったとはいえません。

結果を見てから数ヶ月前の判断をとやかく言うのは実に簡単で、そして卑怯なことです。

経過観察という言葉は実に使い勝手が良い言葉なのですが、本当に経過観察で良いのかどうかということを常に自問自答しなければなりません。

【医師の視点】がん治療における治療適応の決まり方。治療方針を左右する要素5個

2018年3月30日

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