【医師の学閥】医学部教授選で何が 次点者が新教授、最多票者は辞職へ at 大分大学

大分大学医学部(大分県由布市)の50代准教授が1月末、辞職する。昨秋の「教授選挙」で最多票を得て、新教授の候補者に選ばれていた。ところが、新しく教授になるのは選挙で次点だった人物。准教授が県弁護士会に人権救済を申し立てる事態に。医学部で一体、何があったのか。

朝日新聞: 2020.1.24

詳細は省略しますが、簡潔に述べますと大分大学の医学部長が教授会で決まった人事をひっくり返したらしいですね。

どうしてこんなことが起こってしまったのでしょう?

医学部教授決定のプロセス

医学部教授の決定に関しては、下記の記事もご参照ください。

医学部教授の概要。教授にになるためには論文の業績が必要である

2018年6月13日

医学部の教授ポストは、先代教授の退官などによってポストに空きがでた場合に公募されます。

いろんな思惑が飛び交う教授選ではありますが、いまはどこの医学部でも国内外を問わず幅広く公募が行われ、多くの大学では公正な選挙が行われている(はず)のです。

教授の決定にあたっては、論文の業績、研究費の獲得状況などが勘案され、場合によっては教授会でのプレゼンテーションなどを経て、投票で決まります。

ですから先代の教授が影響力を行使しようとして、自分がプッシュする准教授を選挙で勝たせようとしても、そう簡単なことではありません。

今の時代ですから、金で票を買うような行動を取れば、あまりにも悪目立ちしてしまいますからね。しかしながら、筆者が研修医のころには「昔は金が物を言う時代だったのだよ」と言われたことがありますので、あながちすごく昔の話でも無いようです。

なぜ大分大学では、教授会の決定が覆ったのか?

今回問題になっている大分大学医学部の件は、冒頭にもあるように教授会で決まった人事が覆ってしまいました。

これは我々医学部の人間からしても異常事態といって良いほどで、驚くに値することです。

少し調べたところによると、今回教授選が行われた診療科では、大分大学出身の准教授と、九州大学出身の役職者が教授選で争ったようです。

そして本来は准教授が教授会で次期教授に選出されたにも関わらず、その決定が取り消されてしまったようです。

記事によるとこの教授会の人事を覆したのは大分大学の学長であるAのようです。この方の経歴を探っていくと、問題の背景が見えてきます。

A氏の略歴

昭和51年 6月 九州大学医学部附属病院 医員)
平成 5年 5月 大分医科大学医学部 助教授(外科学講座第一)(科長代行)
平成 8年 4月 大分医科大学医学部 教授(外科学講座第一)
平成23年10月 大分大学長

経歴について詳細は省略していますが、A氏は九州大学出身であり、大分大学の学長にまで昇進しています。

九州大学は九州の中では臨床・研究実績ともに頭一つ、二つ抜け出ており、九州の医学部内に多くの教授を輩出しています。

おそらくはA氏と今回教授選に立候補した九州大学出身者には強いパイプがあり、A氏としてはどうしても次期教授に推したかったのでしょう。

こういうことを考えている教授陣は現在でも少なからずいるかと思いますが、それを実行に移してしまうのは、驚きです。

【医師の視点】医学部における学閥支配の概要。各医学部が有する勢力範囲とは?

2018年4月14日

決定を覆すことのメリット

もちろん直接的に金銭的なメリットはないと推察しますが(あったとすると相当な大金でないと動かないでしょうし)、顔見知りが増えることで例えば仕事がやりやすくなったり、何か共同でプロジェクトを進める場合に円滑に進んだりする場合があるでしょう。

よくあるのは、医局の教授が退官に伴って自らの弟子・部下を教授候補に推薦する場合ですね。退官する教授としては研究内容をそのまま引き継ぐことができますし、退官してからもある一定程度影響力を行使することができるでしょう。

本件に戻りますが、このようにA氏が教授会の決定を覆したのはどうしてなのでしょうか?A氏にとって九州大学出身者を教授に据えることが利益となるのは間違いなさそうですが、あまりにも力技すぎるような気もします。

逆に教授にプッシュされる側にしてもA氏に頭が上がらない状況になることは間違いありません。このように考えると、ここまで強引な手法を使って果たして誰が得をするのかよくわからなくなってきます。

このような強引な人事はいまはほとんどない

とまぁ強引な人事が大分大学では行われたのですが、このような強引な人事はいまや稀でしょう。

冒頭で述べたとおり、多くの国立大学では教授会を意思決定の最高機関として、公正な選挙が行われているものと信じたいものです。

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