病院にやってくる社長などのVIP患者たち。対応は変わるが治療は変わらない

大学病院勤務時代には多くのVIP患者を見てきました。

政財界のみならずアスリートや著名人など、いわゆる有名人と呼ばれる部類の患者も多くいました。

そのようないわゆるVIP患者への病院内での対応は、変わるのでしょうか。書き記してみたいと思います。

VIP患者はみなさん余裕がある

VIP患者たちは社会的に成功している人です。

彼らは社会的に成功しているがゆえ、自己主張が強く、自分の主張を何としても貫き通すのかと思いきや、意外と自分みたいな若い医者の意見も真摯に聞いてくれるのです。

もちろん仕事が忙しく、早く退院させてほしいなどといった要望もそれなりに多いのも事実です。

一方で全体としては医療者側の要望を素直に聞き入れ、話が進みやすい印象がありました。

やはりある分野でプロフェッショナルである以上、それぞれの専門分野をリスペクトしているのでしょうか。

病院側の対応は少し変わってくる

国民皆保険制度のもとで金持ちもそうでない人も同じように診療している日本です。

しかしながら、本当のVIP患者への対応はやはり変わります。

主治医は教授や准教授であることが多い

このようなVIP患者を診察するのは、その地位に釣り合う病院の役職になります。

つまり外来で診察するのは教授とか准教授とか、診療科の中でも位の高い人になります。

とはいっても教授は実際の臨床のことについてあまりわかっていないことが多いですから、細かい検査のオーダーや処方などは、臨床経験のある中堅医師が行うことも多いものです。

病院や診療科によっては最初だけ教授が挨拶して、その後は中堅医師にバトンタッチの場合もあります。

ただしそうは言っても、名目上の主治医や実際の説明などにおいては、役職の高い医師が行う例が多いでしょうか。

病院に出入りする場所が裏口の場合がある

アスリートや著名人など、顔が広く知られている患者だと、混乱を避けるために正門ではなく裏口から患者さんがやってくる場合もあります。

超有名人がほかの患者と同じように待合室で待っていれば相当にトラブルになりますから、こればかりは仕方ありません。

おそらくは事務方がいろいろと調整しているのでしょうが、気付いた時には有名な患者さんが病院を受診していたりします。

またVIP患者ではないですが、服役中の患者さんにおいても、付き添いの警官がいたり、手錠を隠すようにしていることがありますから、裏口から入ってくる患者さんはいますね。

個室・特別室対応

入院する場合の病室は、例外なく個室になります。

VIPな患者たちは仕事やプライベートな事情で個室を希望されることが多いですし、そもそも警備上の理由から病院側が事務方と調整して個室になることが多いでしょうか。

とはいうものの、大学病院をはじめとした公的病院では個室といってもせいぜいシャワールームとかトイレが個別にあるだけです。

VIP患者からすると、なんとも物足りないと思ってしまうことでしょう。

病院の中にある特別室の概要。すごく豪華な特別室もある

2016年10月3日

治療のスケジュール調整

またVIP患者では、治療についても配慮を受けます。

例えば診察までに待つ時間や検査治療の日程が大幅に短縮されます

一般の患者さんと他の患者さんで大きく違うのは、やはりこの病院ないので診療スケジュールです。

普段なら手術まで一カ月かかるような場合でも、最短で1週間で手術とかスケジュールが病院全体で調整されます。

これは病院側が大いに配慮している場合もあるのですが、VIP患者が忙し過ぎて、ごく限られた期間しか入院や治療に時間を割けないという側面もあるのです。

日々行っているカンファレンスでも、

この方は〇〇会社の社長で

と言うことになれば、その方に合わせたスケジュールが設定される傾向にあります。

VIP患者でも治療内容は同じ

一方で国民皆保険制度で素晴らしいと思うのは、その患者がたとえどんな地位にあったとしても、治療方針や享受する医療の質が、他の患者と変わらないことです。

これは標準治療が一番という意味では、すごく重要です。

会社の社長だからと言って良い治療機器で治療でしてもらえるわけでは無いですし、ガイドラインに反した無茶な手術をするわけでもありません。

収入によって支払う医療費に多少はありますが、経済的な度合いによって享受できる医療が変わるわけでもありません

基本原則として、患者の背景によらずガイドラインに則った標準的な治療がなされます。

社長だからといって検査が多くなるとか、教科書に書いてある治療よりも良い治療を受けることができるわけではないのです。

【医師の視点】がん治療における治療適応の決まり方。治療方針を左右する要素5個

2018年3月30日

乳がんの標準治療。がん治療では標準治療が一番

2018年12月16日

社会的地位がアダとなったVIP患者2例

グダグダな手術となった政治家の胃がん患者

ある50代の男性政治家は、早期胃がんということで私の勤務していた病院に紹介となりました。

この政治家は病院の外科部長と懇意にしているらしく、長年の付き合いもあって胃がんの手術も外科部長が担当することになりました。

ところがどこの病院でもそうですが、一定規模の病院の部長となると臨床から遠のいていることは珍しくありません。

病院経営や研究、学会発表など、普段の臨床業務を部下に任せて、自分は悠々自適なんて場合もあるのです。

特に腕一本で技術力が全ての外科医などは、偉すぎる部長よりも、中堅どころの臨床バリバリの先生の方が手術がうまかったりすることも多々あります。

この外科部長も同様に、普段は手術室に姿を見せることはなく、悠々自適の勤務をしているのでした。

誰もが「部長先生が手術して大丈夫かなぁ。。。」と思いつつ、政治家の手術を外科部長が担当することになりました。

伝え聞くところによると外科部長が執刀したその手術は、手術時間は長いわ、出血量は多いわ、危うく間違った血管を切りそうになるわ、で大変だったようです。

幸い助手には仕事のできる40代の外科の先生がついていたそうで、その外科の先生の”指導”のもとに、外科部長はなんとか手術をすすめていったとのこと。

病院の中で地位がある、偉いからといって必ずしも手術がうまいわけではありません。

普通の患者さんとして病院を受診していれば、脂ののった手術のうまい先生の執刀を受けることができていたのかも知れないのです・・・。

ガイドライン無視の治療をされていた70代の男性

ある70代の男性医師は、地域の大病院の理事長先生でした。

そんな理事長先生も年齢を重ねるについて内臓疾患を発症し、某大学病院に紹介されることになりました。

誰もが知る病院の理事長ですから、もちろん診察に当たるのは診療科のトップである教授となります。

ただし、これが理事長先生にとっては不幸でした。

大学病院の教授なんぞ、研究や教育で日々忙しく、病院の中でコツコツ臨床業務を行なっている暇なんかありません。

教科書を書いたり教えたりするのは得意ですが、実際に病院で患者を診察することはほとんどなく、臨床的な能力は衰えていることが少なくありません。

理事長先生を診察した教授も例に漏れず、処方されている薬やオーダーされている検査が全くの的外れだったのです。

患者の検査結果は良くなることはなく、かといって悪くなることもなく、横ばいのまま経過していました。

医局員の誰からみても間違った治療がなされていたわけですが、もちろん誰も意見することはできません。

教授に「あなたの治療は間違ってます」なんていおうものなら、明日から僻地の病院に飛ばされても文句は言えない、そんな状況なのです。

ところがある日、教授の外来日にたまたま教授が不在で、講師のA先生が担当することになりました。

流石に医局内での立ち回り方が良くわかっている講師のA先生。なんと初対面にも関わらず処方をガラッと変えてしまいました。

処方を変更した結果、理事長先生の経過も良好に経過していたようです。

その後、教授は「外来が忙しいから」との理由で理事長先生の外来主治医から身を引いたのです。

自分のやっていることが間違っていると悟ったからなのか、患者さんからの信頼を失ったと思ったのか、変わり身の早さには驚きですね。

偉くなることは良いことか?

というわけで、社会的に偉くなることが、必ずしも良い医療を受けることができるというわけではありません。

もちろん個室に入ったりとか、手術までの待機時間が短くなったり、職員の対応がやさしかったりと、本質的な部分以外ではより良い待遇を受けることができるかもしれません。

しかし肝心の医療行為においては、偉すぎて臨床業務から離れている医師が行うかもしれず、必ずしも一流の、最前線の治療を受けることができるとも限らないのです。

中途半端なVIPが一番面倒

VIP患者の中にも聞き分けの良い患者とそうでない患者はたくさんいます。

小VIPとでもいいましょうか、地方公共団体の議員や、田舎のお偉いさんになると、とたんに聞き分けが悪くなるのです。

教授の意見は聞くけれども、日頃診療にあたっている若い医師の話は聞かない。

看護師は完全に見下しており、どうでも良いことばかりで文句を言うなど、彼らは態度だけは一人前です。

さらには特別待遇を求めてきたりとか、治療方針に文句を言ったり、無理なスケジュールをお願いしてきたりなどの行動も目立ちます。

上にも書いた通り、本当のVIPとは自ら名乗り出なくとも周囲が自然とそのような対応になるものです。

このような小VIPは病院内部でも煙たがられていますから、十分に注意が必要です。

医者の親戚にもVIPは多い

そして口には出しませんが、医者の親族にも恐れ多いほどのVIPはたくさんいます。

私と同じ病院で働いている温厚な後期研修医の父親が、都市銀行の頭取だったり、医局で隣の席に座っている中年女性の伯父がある省庁の大臣だったりしたこともありました。

ですから「所詮医者だから大したことないだろう」なんて思っていると、実はそうではないこともよくあります。

やはり人間というのは少しだけちやほやされてしまうと大きく勘違いしてしまうようです。

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2018年1月24日

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