大学病院では「〜教授の総回診です」。。。なんて演出はよくドラマでありますね。
教授には以前ほどの権威はないですが、今でも大学病院では教授のよる総回診が行われています。
ただ結論から申しますと、臨床的には教授回診にはほとんど意味がないと言っていいでしょう。
教授回診の概要
通常の回診というのは、主治医やそれに関係する医師が、病棟に入院している患者さんに所に向かい、体調に変わりないかどうか、今日の検査や治療は何か、ということを聞いたり伝えたりする場です。
患者にとっては、医師に直接今の体調を伝える機会であり、1日のうちで医師とコミュニケーションをとる唯一の機会でもありますね。
本当は頻繁に患者さんの元に足を運ぶべきなのですが、忙しくて難しいのが実情です。
一方で教授回診では、患者の主治医ではなく、診療科の教授が中心となって入院患者の全てを回診します。
その回診ではもちろん教授だけなく、医局員全員、研修医、学生、看護師長などの全員が、ぞろぞろと回診に参加するのです。
外科や内科などの医局員が多い診療科になれば、30人くらいの人々が患者さんのところを回診するという、映画みたいな光景になるわけです。
教授は臨床にほとんど関わっていない
普通は大学教授というのは研究やマネージメントで忙しく、病棟の入院患者のケアを行なっている時間なんてないんです。
入院している患者さんについて、名義上は教授の名前で主治医になっている場合があるかもしれません。
ただしほとんどの場合にはおいては実際に患者さんに毎日会って、必要な指示を出しているのは、病棟にいる医局員ということになります。
教授自身が入院患者さんを毎日回診し、カルテを書いたり、指示を出したり、処方をしたりすることは滅多にないでしょう。そんなことをするのは、いわゆるVIPの患者だけです。
ですから教授回診といっても、教授自身は入院している患者さんのことについて全く分かっていないんです。
この人はこういう病気で、こんな症状があって、こういう治療をしていて、その治療はこうで・・・などといった、主治医であれば必ず把握すべき情報を、一つも知らないんです。
ですから通常は教授回診の前に、入院患者に関するプレゼンテーションが、普段患者さんをみている医師から教授に対して行われます。
そして、その情報を元にして教授はなんとなく患者さんの情報を把握し、病棟に向かうわけですね。
例外もあり
といってもマイナー診療科で医師の数が少ない場合には、教授自身が主治医となっていろいろと診療をしている場合もあります。
私の勤務していた大学病院でも、形成外科の教授なんかは自ら患者を診察し、検査をオーダーし、他科の医師に診察を依頼し、、、なんてことをやられていました。
こういう場合は教授自身が回診したとしても、入院患者の状況を把握しているでしょうし、最新の臨床的な知見にも精通しているでしょうから、意味のある回診となることでしょう。
ただし、多くの大学病院の診療科では、例外的なことと考えた方が良さそうです。
教授回診の実際
実際の教授回診では、教授本人が病棟に入院している各患者さんに声をかけ、回診していきます。
大学病院だとひとつの診療科に入院している患者は、一般内科や外科であれば30-40人くらいでしょうから、回診にかける時間が1人1分としても移動時間を含めて1時間以上は確実にかかります。
ときには患者さんに体調を聞きながら、あるときには胸に聴診器を当てながら、回診していくわけです。
当然のことながら、教授自身は一人ひとりの患者さんに対する把握はほとんどできていませんので、この回診で何か治療方針を変える・変わるといった事はありません。
患者さん側にしてみても、すごく偉い医者が急ぎ足でやってきて去っていくわけですから、本音が言えるはずもなく、教授が患者さんを診察するというだけの儀式のようなものなのです。
もし私が患者として大学病院に入院したとして、誰にも言えない本音を教授にいうことは絶対ないでしょうね。
教授回診はそんな程度です。
教授回診で現場が混乱することもある
本来は儀式であるべき教授回診なのですが、現場が混乱することもあります。
例えば教授回診で体調を聞かれた患者が、不意に「腰が痛い」と言ったとします。
いつも患者の様子を把握している主治医であれば、その患者さんが10年以上前から脊椎の病気で整形外科にかかっていること、そのせいで腰が痛いことを把握しているはずなのです。
ところが腰が痛いという訴えを聞いた教授にしてみれば初耳な訳ですから、病棟の主治医に「腰の検査をしなさい」などと言ってしまうわけです。
本来は整形外科の医師の診察を受けており、診断もついて原因もはっきりしており、検査する必要もないのですが、教授の一言によって正しくない方向に方針が変わってしまう場合もあるわけです。
これと同様の事例はたくさんあって、教授の無責任な言葉によって現場が混乱するのはしばしばです。
教授回診の意義
では教授回診の意義とは何でしょうか。
1つは、患者サービスと言うことができるかと思います。
もしかしたら患者さんの中にも、「大学病院に入院して、偉い先生と話せて良かった」と思う人がいるかもしれません。
教授回診で患者さんが満足し、他の医師との関係性も良好になるなら、安いものです。
もう一つの意義は、学生や研修医の教育です。
教授回診に前に行われる入院患者さんのプレゼンテーションでは、たいてい医学部の学生や研修医が行います。
また病気などのプレゼンテーションを受けて、教授が学生や研修医に質問する場合もあります。
医学部の学生や研修医にとっては、多くの医者の前でプレゼンする機会は限られていますから、効率の点は別にして、少しくらいは教育の意味があるでしょう。
その意味では、教授もしっかりと役割を果たしているということはあるかもしれません。
教授回診について医局員が思っている事
積極的な意味を見出せない教授回診なわけですが、一緒に回診をしなければならない医局員にとっては負担以外なにものでもありません。
日々忙しい診療の中で、教授回診のためだけにプレゼンテーションの資料を用意したり、教授や医局員と一緒に回診しなければなりません。
プレゼンテーションから教授回診の終了までは、どんなに短くても2時間位かかります。入院患者が多い場合には、半日仕事になる場合もあります。
いずれにしても、教授回診に時間を割いている間は全く業務が進まないことになります。
民間病院などで、院長回診などがあったとしたら、すぐに廃止されてしまうでしょうね。
それは病院の収益と言う観点からは、全くもって意味がないからです。
このように全体的に意義の少ない教授回診なわけですが、今現在も全国の大学病院でも広く行われています。
教授回診の間に1人でも多くの外来患者を診察した方が、病院全体の利益になるわけですから、今後は時間を短くするとか、頻度を少なくするとか、何らかの対策が求められそうです。
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