入院している患者さんは、病院で出される食事を食べなければなりません。
ただし食事制限がなく、病院内にレストランやコンビニが入っている場合には、そちらを好んで頻用する患者さんもいます。
病院食を食べない理由の一番は、病院食が美味しくないから、ということのようですね。
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病院食が美味しくない理由
病院食が美味しくない理由をいくつか挙げてみたいと思います。
塩分制限がある
病院食は栄養バランスやカロリー、塩分などが理想的な量になるように調整されています。
普段の食事、特に飲食店で出される食事には塩分などの調味料がたくさん使われており、全体的に塩分は過剰摂取気味なのです。
Wikipediaにもそのような記載があります。
しかし人類が調味料として塩をふんだんに利用するようになると、塩分の取り過ぎが高血圧(食塩感受性高血圧要参照)や腎臓病、心臓病、脳卒中などの遠因となった。
そのメカニズムは完全に解明されてはいないが、一般には血中のナトリウムイオン濃度を一定範囲に保つため水分を取るようになり、血液を含む体液の量が増え血圧が高まるとともに、これを体外に排出する機能を司る腎臓に負担がかかるためとされている
代表的なものにラーメンのスープなんかがありますね。
大抵は美味しく感じるわけですが、それらにはたくさんの塩分が含まれているのです。
飲食店からすると客の健康は最優先事項ではなく、飲食店に何回も来てもらい、たくさんのお金を使ってもらうことが何より重要なのです。
病院食は普段の食事よりもかなり制限されています。
自宅で生活していた患者さんは、よく
「病院食は薄味だ」
とおっしゃいますが、これは塩分制限がされているためでしょう。
歯ごたえがない
病院の中には、体力の低下で食事を噛んで飲み込む力が低下している患者さんがいます。
また高齢者の場合には、歯が悪かったりして咀嚼するのが難しい場合があるでしょう。
咀嚼が難しい食品が出されてしまうと、患者さんが喉に詰まらせてしまう場合があります。
よくお正月に餅を詰まらせて命を落とす高齢者のニュースがありますが、あれと同じです。
したがって病院で出される食事としては、噛みやすく、喉を通りやすい食事が理想的なのです。
究極はとろみをつけた、ミキサーで砕いたような食事な訳ですが、健康な人が食べて美味しいと感じるのは難しそうです。
使える食材が制限される
病院食は大量に調理され準備されますから、使える食材はどうしても制限されます。
また食事の消化や衛生面からも、使える食材を配慮しなければなりません。
刺身や寿司などのナマものは衛生面でも好ましくないですし、胃や腸での消化の面からもあまり良いとは言えないでしょう。
そのほかグレープフルーツや納豆などは、薬の作用に影響することが知られています。
薬との相互作用についても、気をつけるべき食材が存在しているのです。
病院の中における食事は大切である
どの診療科であってもそうだと思うのですが、入院中の患者さんの食事は重要です。
糖尿病の患者さんではカロリーコントロールは大切ですし、腎臓病の患者さんでは塩分コントロールは大切です。必要であればそれぞれの患者さんに合わせた食事が用意されるのです。
つまり入院患者にとっての食事は、治療のひとつであると言っても過言ではないでしょう。
また放射線や抗がん剤などのがん治療をしている場合には、食欲が落ちてきます。
外科の患者さんで、腹部の手術をしたような場合には、食事をどれだけ食べられるかということが、まさに患者さんの回復の目安にもなってきます。
ですから入院患者さんの食事量というのは、患者さんの状態を表す一種の大切なバロメーターなわけですね。
診察や回診では食欲はありますか?とよく聞く
医師は入院患者さんの診察をするときには、挨拶がわりに、「食欲はありますか」とよく聞きますね
出されたものは全部食べてますと言う患者さんもいれば、病院食が口に合わないとはっきりおっしゃる患者さんもいます。
中には、答えにくそうに、食欲はあるんだけれども…と言うようなことをおっしゃる患者さんもいます。おそらく病院食が口に合わないのだろうと推察します。
病院食がすすまないときは、食べたいものを食べてください
私自身は、がん治療している患者さんをよく診察するのですが、基本的には食べたいもの食べてくださいと言うようにお話ししています。
今や病院の中には、コンビニエンスストアや、レストランみたいなものが入っていますから、ひとまずそこで食べたいものを食べれば良いと思うのです。
何も食べなければ、体力がどんどん落ちていきますし、必要な治療を続けられないこともあります。
それくらいになるのであれば、少々ジャンクなものでも、どうぞ食べてください、といったところでしょうか。
ただし全員が好きなものを食べれば良いと言うわけではありません。腎臓病の患者さんでは、タンパク質を制限することが必要ですし、糖尿病の患者さんであるが、カロリーを制限することが必要です。
病状によっては、非常に厳格な食事のコントロールをする必要が出てくるので、あくまで、食べるものに制限がない人はという前提条件がつくのですが。
たいていの病院では当直医向けに病院食が出る
たいていの病院では、病院の食事が出されることが多いです。
私がこれまで当直を行ってきた病院で、食事が出なかったのは大学病院だけですね。
さてその食事なのですが、基本的には病院の調理場で作っているようで、患者さんが食べている病院食と同じです。
病院食は基本的には健康を考えて患者さん向けに作られていますので、味付けは薄いですし、噛みやすいように硬いものはないですし、カロリーも控えめです。
普段味の濃いものを食べ慣れている我々としては、どうしてもおいしくないと感じてしまうものなのです。
ただし、何日も食べていると口の中が慣れてくるようで、長い間入院している患者さんが病院食に対して強い不満を言うのはあまり聞きません。
慣れてくれば美味しく感じるのかもしれません。
病院食を食べることには意味がある
そんな美味しくない病院食なのですが、食べることには意味もあるのです。
病院職員が病院食を食べることを検食と呼んだりします。
検食は食事を検査するという文字通り、医師の立場から病院食について感想を述べるものです。
味付けは適当か、分量はどうかなど、食事を終えると検食簿とよばれるアンケートに記入することになります。
この検食率が低いと、病院の医局会などで取り上げられて、もっと検食をするように通達がきたりしたことがありました。
というのも「入院時食事療養」という保険診療上の報酬を獲得するにあたって、検食は必要らしいのです。
例えば厚生労働省のサイトには下記のような記載があります。
2 入院時食事療養
入院時食事療養の届出を行っている保険医療機関においては、下記の点に留意す る。
医師、管理栄養士又は栄養士による検食が毎食行われ、その所見が検食簿に記入されている。
つまり、医者が病院食を食べて検食簿に記載をしていないと、この入院時食事療養という保険請求ができないことになってしまうのです。
言ってみれば、検食というのは、病院が収入を得るために必要なことなのです。
必要といわれてもどんどん病院食は食べなくなる
私が医者になってすぐの頃は、頑張って病院食を食べていたのです。
しかしいろんな病院で食事をするうちに、病院食=おいしくない といった概念が植え付けられてしまいます。
最近では病院食も評価されるようになり、健康に良い食事とのことで料理本も出版されているようです。
しかし、それでも無理なんです。
本質的には味の問題ではなくて、病棟に漂う病院食の匂いを毎日感じていたりとか、昔食べた病院食がおいしくなかったとか、感情的な問題なのでしょうが、それでもだめなんです。
医者になって4年目ぐらいからは、病院食は全く食べなくなりました。
というより、どう頑張っても食べられなくなりました。
最近では病院で当直するような場合には、自ら外で買った食事をもっていくか、病院内に入っているコンビニエンスストアで買うことがもっぱらです。
おかげで良い年になってから、コンビニエンスストアの商品に詳しくなるようになってしまいました。
他にも当直するときに食べるものはある
あるアルバイト先の病院に当直していたときには、少し外出して近所の回転すし屋までテイクアウトに行ったこともありました。
また大学病院や総合病院では出前メニューが充実しており、勤務する病院に出前を持ってきてもらうことも可能です。
出前する側も注文が頻繁にあるからなのか、病院の各階の配置については把握しているようであり、「6階のカンファレンスルームにお願いします」といっただけで、迷うことなく持ってきてくれるようになっています。
こうやってたくさんの選択肢があると、どうしても病院食よりはコンビニとか、出前に頼ってしまいますよね。
別に食事や味にうるさいわけではないのですが、病院食を食べるのはつらいものです。
病院食は本当に”美味しくないのか”
話はそれましたが、病院食を美味しいと思う患者さんはあまり多くありません。
私自身も病院食はほとんど食べないですし、美味しそうには見えないというのが正直なところです。
ただし、本当に美味しくないかどうかは難しいところです。
そもそも一般人たちはあまりにも味付けの濃い料理=美味しい料理と洗脳されており、その対極には病院食があるのです。
実際に長期間入院している患者さんなんかだと、病院食にも慣れてきて、美味しく感じることが多いようです。
少なくとも、長期入院している人が次第に病院食を受け付けなくなるということはなくて、どちらかというと箸が進むようになる場合が多いでしょうか。
したがって病院食を美味しく感じることができないのは、病院食が本当に美味しくないのではなく、仕方ないことなのかもしれません。
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