私が医者になってすぐの頃は、医局と関連病院はまさに主従関係にあるものでした。
医局の関連病院は、医局から安定的に医師を供給してもらう存在であり、「来年から派遣する医師を減らす」と言われても、病院側は文句ひとつ言えませんでした。
しかしながら、医局の弱体化にともなって、関連病院も自前で医師を雇用・育成する流れが出てきました。
結果的に医局の弱体化がすすんでいます。
これまでの医局と関連病院の関係
医局は関連病院への医師の派遣において、全ての人事権を握っています。
つまり人材派遣会社である医局が、関連病院である派遣先に独断で医師の派遣を行なっていたのです。
一方で関連病院側は医局に様々な働きかけを行い、優秀でたくさん医師を派遣してもらうようにお願いする、そんな構図がありました。
もし医局側の機嫌を損ねてしまえば、来年度からは医師を全く派遣してもらえなくなることもありますから、関連病院にとっては医局とはまさに生命線でありました。
この制度にはもちろん問題点がたくさんありましたが、都道府県単位、地域単位の医療を安定的に支えるといった意味では有用であったかもしれません。
また様々な症例を若手医師に強制的に経験させることで、幅広い臨床経験を積んだ、自立した医師を育てるということに関しては有意義であったと思います。
メリットもあればデメリットもあった、そんな医局制度だったのですが、ただし状況はどうやら少しずつ変わってきているようなのです。
関連病院からの医局の撤退傾向
最近よく見聞きするのは、関連病院からの医局の撤退と、それに伴う関連病院の自前のでの医師確保です。
新臨床研修制度が始まって長らく経過し、一部の大学病院を除いては、そもそも大学病院・医局に入る研修医がどんどんと減っているようなのです。
私の知っているある大学の内科系の医局は、関連病院に勤務する医師の数に比較して、新人の入局員があまりにも少ないため、これまでは医師派遣を行なってきた関連病院から手を引いている、手を引かざるを得ないらしいのです。
医局から関係を断ち切られるほどの優先度の低い関連病院の事ですから、当然フリーランスや他の大学病院から医師は集まるはずもありません。
医局派遣が途絶えた病院の診療科の多くは、出張医師体制か、診療科の閉鎖の状態に追い込まれることが多いようです。
そしてこれは決して地方病院の問題だけではありません。
都市部に位置している病院で、毎年医局から人材の派遣を受けている病院にあっても、やはり医局全体の規模の縮小に伴って、十分な診療ができるだけの医師の派遣を得られにくくなっているようです。
自前で医師をリクルートするのも当たり前に
そこで病院の中には医局派遣を頼るのではなく、研修医を自前でリクルートする病院も現れてきました。
主従関係にある関連病院の中で、関連病院側が医局の人事とは全く関係のない人間を採用する事は、ご法度のように思えてしまいます。
ただ実際のところは、十分な数の医師を派遣できない以上、医局側も黙認するしかありません。
私の知っているある都市部の総合病院では、すべての診療科が大学病院の医局の関連病院であるにもかかわらず、その一方でで自らリクルートした医師を雇用しています。
つまり、医局から派遣されている医師と直接雇用されている医局と関係のない医師が、一緒に勤務していることになります。
少し前までは、医局派遣の病院において医局とは関係のない医師が働くのは全く考えられないことでした。
関連病院側としても、先細りする医局の人材からの医師派遣をあてにするのではなく、自前で医師を育て、雇用しようとする動きがあるのです。
関連病院の自立の果てには何が待ち受けているか
このような傾向は緩やかではありますが、しかし一方で確実に進んでいます。
このような医局関連病院での自前の医師のリクルートがどんどん進んでくると、行き着く先は医局の無力化といってもよいかもしれません。
これまで一般病院側が頭を下げて医師の派遣をお願いしていたにも関わらず、今度は医局側が就職先を見つけるために頭を下げる必要が出てくるかもしれません。
医師の雇用の流動化に伴い、民間の医師派遣会社の力が相対的に強くなってくるとするならば、大学病院に勤務する医師の求人広告が出てくるかもしれませんね。
まぁ待遇が悪すぎて誰も応募しないでしょうけれど笑
大学病院と一般病院での勤務を比べた場合、圧倒的に一般病院での勤務の方がストレスが少なく、そして待遇も良いことが多いです。
このように関連病院が自前で医師を雇用し、育てるようになってくれば、医局が人事権を行使できる範囲も縮小するでしょうから、医局の弱体化は避けられないでしょう。
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