【医師の視点】大学病院の病院実習で医学部生を教育することが難しい理由4つ

大学病院の大切な役割の一つに、医学部学生の教育が挙げられます。

医学部4-6年あたりに行われる大学病院の実習では、実際に働いている医師が学生に手取り足取り教えるのです。

しかし、学生を教育することは簡単ではありません。

医学部における病院実習の概要

医学部も後半にさしかかってくると、研修医に備えて学生たちは病院での実習を始めます。

学生にとって病院とは右も左もわからない存在であるがゆえ、実際に働いている医師の側につきながら、実際の病院業務に関して学んでいくことになります。

とは言っても医師免許はなく、患者さんに侵襲のある手技は行うことはできません。

基本的には患者さんと話すことでコミュニケーションの取り方を覚えたり、実際の患者さんをモデルに診察していくことで、より実践的な力を身につけていくのです。

カンファレンスの出席

医者が行っているカンファンレンスに出席するのも、学生の重要な仕事です。

大学病院では入院患者の治療方針について、研究についてなどいろんな(無駄な)カンファレンスが開催されています。

しかしカンファレンスに参加したからといって、専門用語ばかりが飛び交って全く何も理解できないのが通常ではないでしょうか。

学生にとっては、念仏を聞いているようなものでしょう。

したがって学生実習とはいうものの、実態はただの見学者に成り下がってしまうのです。

一方で医者側にとっては、カンファレンスに出席している学生を”教育している気分”になります。

また自分の時間を使うことなく教育できますから、医者にとっては便利なカンファレンスなのですね。

患者の診断・治療

実際の医療行為にあたる患者の診断や治療については、かなりハードルが高くなります。

医学部の学生であっても医師免許を持っていないただの一般人ですから、薬を処方したり医療行為を行うことができません。

したがって患者の診断や治療については、完全に蚊帳の外になってしまいます。

手術の助手

そんな学生なのですが、実習の大きなイベントの一つに手術の助手に入る場合がありますね。

視野を確保する器具を持ったりして、術野を広げる仕事を任せられることがあります。

ただし大学病院の場合には、研修医からベテラン医師まで医者がうじゃうじゃいますから、ただ働きしてくれる雑用係は数多く存在しています

したがってただ何時間も術野を眺めているだけになる場合も多々あります。

これも一種の見学ですから、カンファレンスと同様に全く有用ではありません。

インフォームドコンセントへの同席

患者さんのインフォームド・コンセントに同席するのも、学生の重要な仕事です。

病棟で担当している患者さんの病状説明や、術後などには医師から患者への説明が行われます。

そのような場に学生が同席するのです。

特に学生自らが何か話す事は無く、こちらもただ見学しているだけになります。

実際医者になって研修医の期間を終えてみると、他の先生が患者さんに話す場面を聞く機会はあまりないですから、なんとなく聞いておくのはちょっとは有用かもしれません。

回診

病棟回診について回るのも、学生の大切な業務でしょう。

毎日の病棟回診では、医者の後ろについて回ります。

上にも書いたように学生の身分では治療方針を決める事はできなければ、薬を処方することもできません。

ですから、こちらもただの見学になることが多いでしょうか。

ただ患者さんの毎日の様子を眺めるのは、医者になっても最低限必要な能力ですから、こちらはそれなりに力を入れて取り組んだ方が良いかもしれませんね。

患者さんの話を聞いたりするのは、医者人生の第一歩としては非常に大切なことです。

講義

さらに多いのは、病棟で医師から行われるミニレクチャーですね。

臨床で重要なポイントについてパワーポイントを利用してレクチャーが行われます。

ただ講義なんかはグループごとに行うよりも、学生全体を一斉に集めて行った方が医者側の負担は減ります。

それにわざわざ病院実習でレクチャーする必要性はゼロですから、あまり意味はないのでは、と思います。

医学部生を教育することが難しい理由4つ

しかし学生を病院で教育するのは簡単なことではありません。

全国の大学病院では、個々の病院が試行錯誤しながら学生の教育にあたっています。

臨床業務が忙しい

1番に挙げられる理由は、医師としての自らの仕事が忙しい事が挙げられるでしょう。

医学部の学生の教育だけを専門に行っている医師はいないわけです。

したがって上層部からのお達しで、学生の教育をするようにと言われつつも、患者さんの診察をしたり、カルテを書いたりと臨床業務を並行して行わなければなりません。

また学生と話している間に持っているPHSにどこかしらから電話がかかってきて、それに対応しなければならないことも頻繁に起こり得ます。

特に外来などで見学する場合には、患者さんを診察しながら学生にも教えなければならないといった非常に高度な能力が要求される事態になるのです。

ただでさえ外来業務は忙しく頭がいっぱいになってしまうわけですが、それにも加えて学生の教育をしなければなりません。

したがって臨床業務が忙しく学生の世話をしている暇なんてない、というのが正直なところなのです。

業績として評価されない

また医学部の学生を教育することは、自らの出世には全く影響しません。

仮に学生からの評判が良い医師であったとしても、出世に繋がったりとか、給料がUPするなんてこともないのです。

自らが出世できるかどうかは、すべて論文などの業績のによって左右されます。

つまり忙しい時間を割いて学生に教育したとしても、直接的には得られるものは全くないと言っても良いでしょう。

学生の教育は、いわばボランティアなのです。

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2018年6月13日

教育の内容が系統的でない

このほか病院における実習においては、学生の教育が系統的でない側面も挙げられるでしょうか。

病院の中の実習では、学生にどのようなことを教えるべきかということが、到達点をどこにするかが決定されていない場合が少なくありません。

ほぼ全ての教育は、医師個人の裁量に任されているのです。

とりあえずは外来を見学させるとか、とりあえず検査を見学させることになるのですが、それによって学生が最終的に何を学ぶべきか、に関しては議論がないのです。

したがって教官側としてはしっかりと教育しているつもりであっても、学生側からすると何にもしてくれない医師という関係になってしまうのかもしれません。

学生が早く帰りたがっている

このほか学生が早く帰りたがっている現状もあるかと思います。

学生からしてみれば、早く実習を終わらせて好きなことに時間を使いたいとの考えはよく理解できます。

実習の中にはただ見学だけ、というような内容もありますから、学生が退屈してしまうのは無理もありません。

明確なカリキュラムがないがゆえ、医学生時代の病院実習はモチベーションが高まるものではなく、退屈なものになってしまうのです。

つまり、忙しくて教育に時間を割くことのできない医師と、早く実習を終わらせてしまいたい学生の利害関係が一致しているのです。

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2018年6月21日

病院での実習をより充実させるために

このような退屈な病棟実習を充実させるために必要不可欠なことのひとつは、まず教育する側の医師の時間をしっかりと確保することでしょうか。

外来見学をするにしても、十分と余裕を持って診察にあたるとか、学生実習の教育を担当する午前中または午後は完全に臨床業務からフリーにするなど、対策が求められます。

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