【医師の視点】病院ごとに異なる死亡確認・お看取りのシステム。その現状と考察

患者さんが病院の中で死亡した場合には、死亡確認をする必要があります。

肺音、心音、瞳孔の反射の消失を死の三兆と言いますが、これらを確認して死亡確認となります。

このような死亡確認は、全国各地のいろんな病院で行われてるのですが、病院ごとによって誰が死亡確認をするか、は少し異なっているようです。

死亡確認をするのはすごく負担

死亡確認自体は1分もあれば終わる仕事なのですが、実際に対応するとなるとすごく大変です。

2017年には、看護師が特定の条件下で死亡診断書の記入が可能になると言うような報道がありました。

こうした現状を改善する運用の流れは、自宅療養する患者宅などを看護師が訪問し、心停止や呼吸の停止、瞳孔の開きを間隔をおいて2回確認。

外傷の有無なども観察し、スマートフォンやタブレット端末で遺体の写真などとともに医師に送る。医師は「死亡」と確認すれば、看護師に死亡診断書の代筆を指示し、医師はテレビ電話などを通じて遺族に口頭で説明する。

朝日新聞 2017.6.30

今後どんどん死亡患者数が増えていく中で、ただでさえ数の少ない医師が四六時中死亡確認をするというのは、結構大変なんです。

患者さんが亡くなるまでのだいたいの経過

状態の悪い患者さんには、心電図のモニターなどが装着されています。そしてこのモニター上で心拍数がゼロになった時に、死亡確認を行います。

人間の正常な心拍数というのは、大体60とか80くらいなのです。患者さんが亡くなるときには、血圧が下がって、心拍数も下がって、そして亡くなる経過を辿ります。

といっても、ヒトの命というはわからないものです。

心拍数が下がって30くらいになってお看取りの準備をしていると、そこから盛り返して数日生存し続ける、というようなこともあります。

私の研修医時代にも、病棟の全員が「あ、今日亡くなるな」と思っていた患者さんが息を吹き返し、普通に会話ができるまでになり、その1週間後に再度状態が悪くなって亡くなった、というようなことがありました。

もちろん終末期のがん患者が何十年も生き延びることはないのですが、ちょっとした予想外のできことは容易に起こりうるのです。

患者さんが亡くなってからすること

まず医師が死亡確認を行ってから、いろいろな物事が動き出します。死亡確認するとすぐに、医師は死亡診断書を記入します。

一方で病棟の看護師は、ご遺体を引き取ってもらうために家族に対して葬儀屋に連絡するよう伝えます。病院には死はつきものゆえ、いくつかの葬儀屋の電話番号が常に用意されています。

連絡を受ける葬儀屋さんの手慣れたもので、24時間体制なのでしょう。

どんなに夜遅くであっても、病院には大体1時間とか1時半位で到着します。しかもスタッフはスーツ姿、喪服姿なのですから、葬儀屋もなかなかつらい職業であると推察されます。

葬儀会社の方が到着するまでは、患者さんの体をきれいに拭いてあげたり着衣を整えたりします。どうやらこの事は、エンゼルケアと呼ばれているらしいです。

ちなみに患者さんでペースメーカーやCVポートが埋め込まれている場合には、これを摘出することがあります。火葬しても燃えないらしいのです。

中心静脈カテーテルなんかも同様です。こういうものが患者さんに入っている場合には医者がその場で抜く場合があります。

医師が死亡診断書を書く時に感じていること。記載内容にはいつも迷う

2017年12月24日

お見送りも行うことがある

病院によっても異なりますが、葬儀会社の車と家族・故人が病院を離れるのを、病院の外で送り出すこともあります。

患者さんにとっては、お世話になった主治医が最後まで送り届けてくれるということで、安心なのでしょうか。

主治医がお看取りするシステムの病院は大変である

私が研修医時代に勤めていた病院では、主治医が死亡確認するのがシステムになっていました。

ですから内科に入院中の患者などで患者さんが亡くなった場合には、主治医がお看取り、死亡確認をしなければなりません。

もちろん病棟にいて、看護師さんと談笑している時などは、いくらでも死亡確認してやるぞと言う気分なのですが、これが夜間や休日だと結構大変です。

状態が悪い患者さんが入院している場合には、病院に呼ばれてお看取りする可能性もありますから、飲み会に行ったりとか、いっぱいお酒を飲んだりすることができません。

真夜中に呼ばれると辛い

夜中の2時とか3時に患者さんが息を引き取った場合には、病棟の看護師から電話がかかってきて病院まで行かなければなりません。

私も研修時代には、1ヵ月に2回か3回位は死亡確認のために呼ばれたことがありました。

もちろん指導医である主治医もコールされるわけですが、その先生をの姿を見ていて、これはもう大変だなぁと思った記憶があります。

もちろん真夜中に死亡確認したからといって、翌日の業務が免除されるわけではありません。通常通りの勤務をしなければならないのです。

ちなみにこの病院では、お見送りも行っていましたので、例えば患者さんが夜中の1時に死亡した場合などには、1時半に病院に到着して、3時に葬儀屋さんが到着して、3時半にお見送りのようなスケジュールになります。

こうなってしまうと、一晩眠れないままに次の日から仕事を始めなければならない、大変辛い状況になるのです。

当直医がお看取りをするシステムの病院は医者に優しい

一方である民間病院に勤務していた時には、病院の当直医が、病院全体の患者さんの死亡確認を行なっていました。

そんなに毎日たくさんの患者さんが無くなるわけないですから、死亡確認をするのはせいぜい2回の当番に一回ぐらいなものです。

確かにこのシステムと言うのは合理的であって、患者さんが亡くなったとしても、主治医はコールされることがありません。

一方で当直医は常に病院にいますから、病棟から電話を受けてせいぜいエレベーターで移動するだけです。主治医が駆けつけるのに比べれば、すごく楽です。

当直医が初対面の患者さんの死亡確認をするのは、少々気がひけるのですが、こちらのシステムの方が合理的なのは間違いありません。

いまの医者は長時間労働が常態化していますから、これくらいはお許しいただきたいものです。

この病院では医師がお見送りすることもなくて、死亡診断書を書けば、業務終了です。ですから看取り、死亡確認に関しては、医療者にとって随分スムーズなシステムでした。

医者は長時間労働や当直で休めない。病院はブラック企業である

2018年1月5日

今後の病院でのお看取りは減っていくかもしれない

医療費の増大に伴って、医療の役割分担が叫ばれています。

積極的な治療を終了し、今後は症状の緩和だけを目指す患者さんなどについては、急性期病院ではなく、紹介先の緩和病院で治療を続けることがスタンダードになりつつあります。

またもっと先を見渡せば、さらなる医療費の削減に向けて、政府は在宅医療を推進しています。

10年後、20年後には、自宅で最期を迎えると言う流れがスタンダードになるかもしれません。

当直病院でのお看取りで感じたこと

大学病院に勤めていたときには、アルバイトとして療養型の病院に当直に行くことがありました。

その病院では患者さんが亡くなった際に、死亡確認するのが当直医の仕事となっていました。

患者さんが亡くなると、看護師さんからPHSに電話があって、さて、という感じで病棟に向かいます。

聴診器で胸の音を聞いたり、眼の反射を見たりして死亡確認を行うことになります。

いつものように死亡確認を淡々とこなしていた後に、「何時何分、死亡確認といたします」と言ったあとに、周りにいた家族が突然泣き崩れることがあります。

その時、自分は特に思いを馳せることなく死亡確認している一方で、目の前の亡くなったばかりの患者さんには、厚みのある人生があり、その周りの家族にとってはかけがえのない存在であったのだなぁと実感させられます。

医師が死亡診断書を書く時に感じていること。記載内容にはいつも迷う

2017年12月24日
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