EXILEメンバー、22歳で死去という驚きのニュースです。
今年3月に胃がん治療に専念するため活動を休止していたEXILE TRIBEの9人組パフォーマー集団・FANTASTICSのメンバー・中尾翔太さんが6日、亡くなった。
訃報を受け、EXILEメンバーが公式サイトなどで追悼コメントを発表した。
2018.7.8 オリコンニュース
このようにして、若くして命を落とす若年性のがん患者さんは存在しているのです。
若年者のがん患者さんは数は少ないが確実に存在している
若い人、特に20代のがん患者さんというのは、高齢者に比べると数は圧倒的に少ないですが、決して珍いない、存在しないわけではありません。
私も医師として働き始めて、20代の大腸癌の患者さん、胃癌の患者さん、10代のがん患者さんなどを多く診療してきました。
彼ら、彼女たちは根治の見込めない状況でしたので、今でも印象に残っています。
このような若年者のがんを、小児がん、AYA世代(adolescent and young adult、思春期と若年成人)のがんとまとめて呼称したりします。
実際の病院内で頻繁に使われる単語ではないですが、統計や論文の世界ではしばしば見られる用語です。
上の図は国立がん研究センター小児がんに関して考察したページのものですが、小児期、AYA世代においてもがん患者さんが確実に存在していることを示しています。
人生これからという時期によって、病気によってその未来が断たれてしまう、医療者にとってはもちろんのこと、家族にとっても非常に辛いものです。
患者さんの中には、入学、卒業、就職、結婚などの人生のライフイベントを控えていたり、そのイベント中に病気を診断されることもあり、本当に病気は人生を一変させてしまうことを実感します。
若年者ががんになる原因
がんの成り立ちには諸説あり、ここでその全てを説明することが非常に難しいのです。
基本的には遺伝的要因や生活習慣からなる要因、そして偶然性などのまだ原因がよくわかっていない部分が背景にあるかと思います。
たとえば60歳-70歳の患者さんが食道癌になった場合には、がんになる原因は遺伝的な要因と言うよりは、圧倒的に酒やタバコなどの生活習慣の影響が多いといって問題なさそうです。
事実、患者さんを診察していても、患者さんの多くは酒やタバコをかなりの量嗜んでいることが多いようです。
一方で10歳や20歳の患者さんががんになる場合には、生活習慣というよりは、遺伝的な要因や偶発的な要因が多いと言わざるを得ません。
血液系のがんや大腸癌、乳がんなどにおいては、がんを引き起こしやすいと言われている遺伝子が同定されています。
したがって若年者のがん患者さんの中には、遺伝子が原因となって発症している割合が、他の年代よりも高くなっています。
一方で明確な原因がわからぬままに、若年ながらもがん患者になってしまう場合もあります。
現在では偶然とか、偶発的発症と言われているがん患者さんの中にも、今後の研究の進歩によって明確な原因が特定されるのかもしれません。
そうそう若い人たちは、特殊な例を除いては元になるほどの生活習慣の蓄積というのがありませんから、どうしても遺伝的な要因とか、偶発的な要因が多いんだと言わざるを得ないでしょう。
若年者のがんは進行が早い、というのは本当か
さて若いがん患者さん方ががんの進行が早いと言われますが、これは本当でしょうか?
少し科学的な視点から考えてみましょう。
乳がんを例に
上のグラフは乳がん発症年齢と予後の関連を示した厚生労働省の若年性乳がんに関するページのものです。
ご覧になってわかる通り、40代以上の乳がん患者(赤ーピンク)よりも、20-30代(黒ー緑)の乳がん患者の方が生存率が低い傾向になっています。
同じページには、ステージ別の生存率も示されており、有意差(意味のある差)があったり、なかったりしているようです。
したがって厳密には「若年性乳がんの方が予後が悪い」とまでは言い切れませんが、「若年性乳がんの方が予後が悪い傾向にある」とは言えそうです。
この現状の背景については、下記のように述べられています。
また、がん遺伝子の一つであり、細胞増殖にかかわる膜蛋白であるHER2は、若年性乳がんで陽性例が高く、また、ER、PgR、HER2のいずれも陰性のいわゆるトリプルネガティブ乳がん(triple negative; TN)も若年性乳がんで多いことがわかりました(図13)。
HER2陽性、あるいはTN乳がんは、乳がんのなかでも悪性度が高く、予後不良な因子であることが知られており、この性質をもった症例が若年性乳がんに多いことは注目すべきであると思われます。
厚生労働省:若年性乳がん
乳がんは遺伝子、ホルモンなどが密接に関係している種類のガンであり、その全てを説明することは割愛します。
上で述べられていることは、若年性の乳がんは、タチの悪い乳がんが多いということを述べています。
さて冒頭の質問に対する答えですが、予後が悪い=進行が早いというわけではありません。
同じ時期に見つかったがんであっても、薬の効き具合が大きく異なるのであれば、治療成績は大きく変わってくるでしょう。
しかし乳がんに関しては、若いがん患者さんの方が予後が悪い傾向にあるのは間違いなさそうです。
他のがんではどうか?
この記事を作成するにあたっていろいろと調べて見たのですが、年齢の進行の早さについて述べた信頼ある情報源は見つけることができませんでした。
ただし今もてる知識を総動員すると、一般的ながんの進行の早さに関しては、年齢よりも組織型の方が圧倒的に重要と言えるでしょう。
同じ60代の肺癌患者でも、小細胞肺癌と腺癌では、その進行度には雲泥の差があります。
それに若年者のがんと聞いて医療者側にとって大切な情報は、遺伝子と関連があるのか、生活習慣に関連があるのか、組織型はどうかなどといった情報です。
実際には進行が早い・遅いに関して何かしらの真実があるにも関わらず、はあまり調べられていないのかもしれません。
調べるといっても、若年者の方が手術や抗がん剤に耐える体力はありますし、そもそも若年者の方が長く生きる可能性は高いですね。
ですから単純に高齢者と若年者のがん患者で生存率を比べるのは難しそうです。
以上のような理由において、若年者のがんの進行は早いか?ということについて医学的に調べられたテーマがないのかもしれません。
さいごに
若年者のがんについては、乳がんについては予後が悪い傾向があるものの、進行が早いかどうかについては明確な根拠は見つけられませんでした。
もし上記について何か知っている方がおられれば、ぜひコメントいただければと思います。
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