【臨床医の視点】医学部に地域枠で入学した学生もいろいろ大変らしい

最近流行りの医学部の地域枠。

医師不足を解消するために、在学中の学費などを奨学金という形で補助する代わりに、卒業後も大学医学部がある都道府県で働くことを義務付ける制度です。

この地域枠で入学した学生たちも、卒業して研修したりするのに色々と苦労しているようですね。

医学部地域枠とは

医学部の地域枠とは、特に地方における医師不足を解消するために開始された制度ですね。

受験条件は各国公私立大学によって異なるが、受験者をその大学が立地する県の高校の出身者に限定したり、卒業後の勤務地をその県に限定していることが多い。

当制度は2013年度(平成25年度)には68校が導入しており、全国の医学部医学科80校の85%に及ぶ[2]。また、同年度における当制度の募集人数は合計1,425人に及び、医学部医学科の全入学者数の15%を占めた[2]

Wikipedia:医学部地域枠推薦

具体的には、医学部在学中の学費や生活費を支給するのだから、卒業後は一定期間その大学がある地元の病院で働きなさいよ、という制度です。

たとえば、岡山大学の地域枠の解説には、下記のような記載があります。

本選抜での入学者全員に対して,岡山県から奨学金〔学費,生活費等に相当する額(年額240万円,月額20万円)〕が在学期間中貸与されます。

この奨学金は,医学科を卒業し医師免許取得後,義務年限期間(貸与期間の1.5倍の期間)に,岡山県が指定する医療機関に勤務すれば返還を免除されます。

義務年限期間には,2年間の初期臨床研修,2年間の後期臨床研修を含みます。(義務年限期間の中断は2年間まで認めています。)

岡山大学:医学部医学科地域枠コースについて

年額240万円が支給されるということですから、6年間では1500万円くらいでしょうか。

医学部入学に際してアドバンテージが得られ、奨学金も得られるなんて、一見すごくコストパフォーマンスの良い制度に思えます。

しかし、実際はどうでしょうか。

地域枠・・本当に良いの?

医学部に入学するときには、一生自分の生まれ育った都道府県で働こうと安易に考えてしまいがちなのですが、実際の医者人生はそう単純ではありません。

医学部在学中には色々な刺激を受け、自分自身のキャリアアップを見込んで、卒業した大学のある都道府県とは全く異なる都道府県で働き始める研修医が大勢います。

キャリアプランが変わることは頻繁にある

上昇志向の強い研修医においては、研修医を終えてからも、全く縁のない土地で生活をしていることも多くあります。

また医学部在学中に結婚を考えるような恋人と出会い、卒業後には全く縁のない土地に引っ越す場合もあります。

また1人の臨床医としていく生きていくのではなく、医療政策など社会医学分野に興味がある場合には、行政機関で働いたり、ときには留学しなければならないこともあるでしょう。

先の岡山大学の例では、学生時代の金銭的な優遇と引き換えに、貸与期間の1.5倍の期間、つまり9年間ものあいだ、県が指定する医療機関で働かなければなりません

これを忠実に実行するとなれば、一臨床医として働くこと以外のキャリアを描くのはなかなか困難であり、先に述べたようにプライベートに関してもかなりの制限が出るでしょう。

自由はお金では買えない

これを1500万円で強制しようとするのは、少し無理があるように思います。

私だったら、多分1億円もらっても自分の勤務地の自由を売り渡すことはないと思います。。。流石に2億円だとちょっと考えますが。

それだけ医者は経済的に自由があり、自由とは高価なものなのでしょう。

地域枠の学生を病院・医療界全体で囲い込む動き

医学部の卒業後に何らかの制限が加えられるのは、結構なデメリットではないでしょうか。

だったら、卒業して無理やり違う都道府県で働けば良いじゃないか、と考えたいものですが、実際はそう簡単ではないみたいですね。

最近聞いたところによると、あるA大学病院では、他のB大学医学部の地域枠で入学、卒業した研修医について、A大学病院での勤務をする場合には、B大学病院の許可証が必要との事でした。

つまりは、地域枠で入学した大学のお墨付きがなければ、研修医として受け入れないよ、ということらしいのです。

確かにB大学病院の意向を無視して、勝手にA大学病院が地域枠で入学した研修医を採用してしまう事は後々軋轢を生む可能性もあります。

このようにして、地域枠で入学した学生の働き方の制限が、大学病院単体ではなく病院全体、研修病院全体で制限されるつあるようです。

とはいっても実力行使で制限を破ることは可能

ではこの地域枠を力ずくで突破することができないのか調べてみました。朝日新聞には下記のような記事があります。

地域枠の奨学金は、大学6年間で総額2千万円前後に上るものも多い。

約束の期間、地域で働けば返済が免除されるが、医師国家試験に合格しなかったり、結婚や親の介護など、やむを得ない事情で地域を離れなければならなかったりする場合、高額の借金に変わる。

朝日新聞:2018.6.13

つまりは在学中にもらった奨学金を完済すれば、特にペナルティなく地域枠の殻をやぶれるようですね。

実際には地域枠という決まりに法的な拘束力はないでしょうし、記事にあるように両親が他の都道府県に移住して介護が必要になった場合には、さすがに病院側もそれを許可せざるをえないでしょう。

それこそ、奨学金を与えているんだから、お前はここの病院に勤務しろ、なんて地方自治体が言ってしまえば、憲法で保障されている居住地の自由を侵害してしまうことになりかねません。

日本国憲法第22条第1項:何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

記事では2000万円の高額な借金とありますが、住宅ローン2000万円と考えれば、大した金額ではありません。

真面目に働いて本気で返そうと思えば、医者の給料なら5年くらいあれば完済できるんではないでしょうか。

ですから、あらかじめ地域枠の制約を破る覚悟で、医学部受験の際に地域枠で入学するというのも、社会的にはあまり褒められないにしろ、世の中を生き抜くという点では正しい選択かもしれません。

まとめ

ちょっと下衆な話ですが、一流大学に入学して会社員勤務したとしても、せいぜい最初のうちは年収は600-700万円くらい、一方で医師となれば1000-1200万円くらいです。

ここで収入差が400万円くらいありますから、医者として4-5年くらい働ければ仮に奨学金の借金を背負ったとしてもスタートラインは同じになります。ちょうど30歳くらいでしょうか。

こう考えてみると、最初から地域枠の制限を破る目的で入学してしまうのも、一考ですね。あながち間違った選択ではないかもしませんね。

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2018年2月2日

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