患者さんの予後を予想することは難しい。医療者側も考える必要がありそう

がんの診療していると、避けられないのは予後の告知です。

目の前にいる患者さんがあと何年くらい生きれるか、ということを説明しなければならないんです。

もちろん医者も適当なことを言っているわけではないですが、そんな簡単に、人生の残り時間なんてわからないんです。

予後を告知するのはストレスである

患者さんにとっては、自分の命の残り時間を決定される点では、非常にストレスでしょう。

あなたの予後は3ヶ月」と突然宣告されたとすると、精神的な負担は並大抵のものではありません。

一方でそれを伝える医療者側は、その場で患者さん感情を見届けなければならないですから、医療者側にとっても大きなストレスです。

したがって予後を伝える場面では、ある程度患者さんと信頼関係を築き、患者さんの家族なども同席した上で伝えることが必要になってくるわけです。

もちろん緊急自体の場合にはいきなり厳しい話をすることもありますが、ゆっくり進行するがんなどの場合には準備期間を設けてから、ということになりましょうか。

命の残り時間は簡単にはわからない

予後を伝えるとさらっとは言いますが、人生の残り時間を予測するのは簡単ではありません。

例えば、あと数ヶ月しか予後がないだろうと思っていた患者さんが、治療が予想外に効いてその後何年も生きることもあります。

もちろんその反対のシナリオも十分ありうるのです。

まだ積極的ながん治療を行っているような場合には、その治療の効き具合によって残された時間がどれぐらいであるか大きく変わってきますから、本当に命の残り時間はわからないものです。

手術や抗がん剤、放射線治療が劇的に効果があれば、今後何十年も生きていける可能性があるわけです。

ゆえに積極的な治療が予定されている、また現在進行形で行っている場合には、少数の例を除いては予後を伝えるということは一般的ではありません。

私が医者になって3-4年目の頃によく言われたのは「人の命というのは誰もわからないのだから、あと何ヶ月の命、といった言葉はなるべく使わないようにした方が良い」との言葉です

治療が進んできた場合の予後

一方で高齢だったり、これまでのがんの治療がきかなくなったりしてきて、残りの時間は自然経過に任せる場合には、ある程度残された時間がわかる場合も多いでしょう

癌の種類にもよりますが、全身にがんが転移して症状が出ているような場合には、一般的に申し上げて予後は1年以内となるかもしれません。

それでもがんの種類によって残された時間はいろいろですから、なんとも言えません。

患者さんに伝える予後の根拠

患者さんに予後を伝えるにあたって、たくさんの根拠があるわけではありません。

学生時代に患者さんの残り時間について学ぶことはないですし、医者になってからも手術操作のように先輩医師に系統的に教わることはありません。

カンファレンスで飛び交う言葉や、看護師との間で交わされる会話を聴きながら、そして実際に患者さんを診療しながら、経験的に学んでいくものなのだと思います。

基本的には病気の進行期別の一般的な生存率とか、患者さん個々の病気の進み具合に従ってある程度の予後は推測されます。

医師側はあくまで推測された予後を患者さんに説明しているに過ぎないのです。

病気が全身にどれだけ広がっているかとか、呼吸が苦しいなどの症状があるかどうかということも重要な指標になります。

そのような患者さんの置かれた状況も考慮して、お話ししていくことになります。

とはいっても上にも書いた通り、患者さんの置かれた状況というのは個人で異なるので、残された時間を正確に言い当てるというのはほぼ不可能です。

患者に予後を伝える意味

患者さんに予後を正直に伝えるようになってきたのはごく最近とのこです。

数十年前までは患者さん本人にはその病名を告げず、家族だけに本当の病名と残された時間を教えることが平然と行われていたようです。

ドラマ白い巨塔においても、末期ガンである主人公の財前教授が、当初はがんではない、という説明を受けているという描写がありました

今ではあまり考えられないことですが…。

今でも地方病院にいくと、高齢の患者さんには正直な残り時間を告げずに、家族だけに予後の告知を行う場面もあるようですね。

しかしそれなりに理解力のある患者さんである限りは、患者さん本人に本当の病名をつけずに治療進めることが極めて難しくなりました。

つまり残された時間をどう過ごすかとか、どのような治療を受けるかに関しても、患者さんの意識を十分に尊重すべきだというわけです。

自分の残された時間を最大限に楽しむ、または活用するという点では、自分の残された時間を知っておくというのはすごく大切なことです。

最愛の人に会いたい、旅行に行きたいなど、死ぬ前までにやっておきたいと思うことは人それぞれでしょうね。

自分に残された時間を知らされずに症状が重くなって入院。その後1度も退院できずに病院の中で亡くなってしまうのはなんとも悔いが残ることです。

予後を伝える時に気をつけるべきこと

患者さんに予後を伝えるのは、すごくストレスです。

だって何の権限があって「あなたの残り時間は何ヶ月です」なんて言えるのか、というはなしです。

患者さんの中には医療者に怒りを露わにする方もいますが、そりゃ当然です。その中において留意すべきことはいくつかあります。

一番大切なのは真実を伝えつつも、なるべく患者さんの側に立ちながら、突き放さないことですね。

あなたの予後は3ヶ月。有効に使ってください

と言われるよりは、

一般的にはあと3ヶ月くらいしか、残された命はないと考えても良いでしょう。もし残された時間で会いたい人、やりたいことがあれば、ぜひやってみた方が良いですね

と伝えられた方が、同じ内容を伝えるにしても患者さん側からすれば医者に持つ印象は随分違ってきます。

予後を伝える方法について正解はないんですが、医療者側もいろいろと気を使っているのは確かなのです。

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