高層マンションに住むと流産の可能性が高くなるって本当?

とある週刊誌の記事に、タワーマンションの高層階に居住すると流産する確率が高くなる、という記事がありました。

これって本当なんでしょうか。文献的に考察してみたいと思います。

高層マンションに住むと流産しやすくなる、という記事

「高層階への居住は住む人の健康面にさまざまな影響を与えますが、妊婦さんにはそれが特に顕著です。33歳以上の妊婦さんは6階以上の高層階には住むべきではないように思えますね」

こう語るのは、長年にわたり環境が人体に与える影響を調査してきた逢坂文夫さん。

国土交通省や厚生労働省、文部科学省からの依頼を受けシックハウス症候群ほかを研究、1994年に発表した論文で、『高層に住む33歳以上の女性の流産率は約7割に達する』と発表し、各界に大きな衝撃を与えた公衆衛生学の権威だ。

週刊女性 2015.11.4

ざっくり要約すると、高いところに住むほど、そして年齢が上がるほど、妊娠女性の流産確率が高くなるというような話です。

エレベーターの加速度で重力がかかったり、あとはエレベーターがなければ階段の昇降で流産しやすくなったりすんでしょうか。

医学的な記事はあまりない

「高層マンション」「流産」とかエレベーターとか色々単語を入力してみて文献を探してみたのですが、あんまりこれといった記事はありません。

英語でgoogle検索しても出てくる結果はたいてい信用できない情報源ですし、pubmedでもそれらしい記事はありません。

したがって、高層階に済むことと流産の確率が高くなるということに関しては、はっきりとした関係はわかっていないと言って良いでしょうね。

といってもこれで終わってしまっては少し寂しいので、もう少し掘り下げて考えてみます。

本当に高層マンションに住んだら流産の確率は上昇するのでしょうか。

高層マンションに住むと流産しやすい理由を考える

高層階に住むことで流産しやすい可能性になる、考えられる理由を列挙してみます。

1、エレベーターの垂直方向への移動、加速度。

2、高層階から見える景色の影響

3、高層階に住むと外出が少なくなる

4、高いところでは空気が薄い

これらの理由のうち、4はちょっと可能性は低そうですね。

そもそも日本国内でも、海に面した都市は海抜ほぼ0メートルなのに対して、信州などの内陸部の都市では海抜数百メートルになります。

都市との比較でも海抜が変わる=酸素の濃度は微妙に違うでしょうから、あまり考える必要はないでしょう。

2に関しても、あまり説得力はなさそうです。

そうでなければ、大都市のオフィスビルで働いている女性は、毎日高層階からの景色を眺めているから流産しやすい、とか、デスクトップを東京タワーからの景色にしている女性も流産の可能性が高い、ということになってしまいますからね。

3はどうでしょうか。

家の中に閉じこもっている方が、流産の確率が高くなるとすれば、東北地方や北海道では、冬の方が流産の可能性は高そうです。また、夏の東京は流産の可能性が高そうです。ただ、そんな話は聞いたことありません。

もし3が真実ならば、東北地方や北海道では、冬の出産は控えるべきとなっているはずです。

ちなみに冒頭の記事では、高層マンションに住むことによる運動不足による低体温とか、換気不足によるアレルギーが流産の原因かもしれない、と記載があります。

ただそれが真実ならば、雪深く冬の寒さの厳しい、東北地方や北海道の方が、運動不足で換気も少ないでしょうから、流産しやすい傾向があるでしょうね。

高層マンションに住んでいることと流産に直接的な関係があるとすれば、一番考えやすいのはエレベーター利用、による加速度垂直方向への移動でしょう。

この加速度Gは、からなず体に直接的な影響をあたえています。高層建築物のエレベーターに乗った時には、グググッといった重力を感じることができますね。

では、同じような環境下に置かれているキャビンアテンダントではどうでしょうか?キャビンアテンダントは、飛行機が離陸、着陸する際に必ず加速度を受けています。

キャビンアテンダントであることは流産のリスクにはならない

論文1

J Occup Environ Med. 1998 Mar;40(3):210-6.
Reproductive health outcomes among female flight attendants: an exploratory study.
(略)
we did not find an overall increased risk for spontaneous abortion among flight attendants, compared with other working women (10%-20%).

上の論文はカリフォルニア大学が、妊娠歴のあるキャビンアテンダント400人近くを調べた研究です。

フライトアテンダントも、妊娠初期には当然自分が妊娠していることを知らずに、飛行機に乗って勤務を続けることになります。ですから、妊娠中も確実に加速度を受けているわけです。

結果は抜粋していますが、「フライトアテンダントも、そうでない人も、自然流産の割合は変わらない」と書いています。

論文2

Miscarriage among flight attendants.

Grajewski B, Whelan EA, Lawson CC, Hein MJ, Waters MA, Anderson JL, MacDonald LA, Mertens CJ, Tseng CY, Cassinelli RT 2nd, Luo L.

Epidemiology. 2015 Mar;26(2):192-203. doi: 10.1097/EDE.0000000000000225.

PMID: 25563432

こちらはアメリカからの別の論文です。

簡単に説明すると、2000人以上のフライトアテンダントを調査し、同じ都市に住むteacher(=教師)の流産割合などについて比較しています。
Miscarriage risk was not increased among flight attendants compared with teachers.

この論文でも、結論はフライトアテンダントだからといって、教師よりも流産しやすい、ということはなかったとのことです。

この理論からいくと、エレベーター利用よりもはるかに高い重力がかかるフライトアテンダントの女性でも、自然流産のリスクは高くならないようです。

もし高層ビル・高層マンションに住むことによって流産の確率が上昇していると仮定して、その原因がエレベータの移動にあるとするならば、どうやらその可能性は低そうです。

まとめ

シンガポールや香港などでは、十分な土地がないために国民のほとんどは高層マンションにすまざるを得ない状況になっています。

また東京や大阪などの大都市においても、都心部に一軒家を構える事はほとんど不可能ですので、若い夫婦などは高層マンションに住んでいることが多いでしょう。

そのように考えてみると、国土の狭い国家で流産が多いと言うような話や、東京や大阪の都心部では流産が多いと言うような話も聞きません。

正確にはすごくよく調べれば、高層マンションの高層階に住むことと、流産のしやすさは関係があるのかもしれません。

ただ、厚生労働省が「妊婦の高層マンションへの居住を禁止する」ほどにその証拠はないということなのでしょう。

この記事の内容に関して、少なくともエレベーターの移動に関しては、フライトアテンダントの論文の結果を考えると、あまり流産とは関連がなさそうです。

一説には、高層マンションに住んでいる女性は所得が高い=ハードウォーキング=流産の確率が高い、とも言われています。流産と高層マンションの関係については、今一度よく考えてみる必要があります。



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