【医師の視点】大学病院の医局における人事の決まり方。嬉しさと悲しさが入り混じる

大学病院の医局に所属している場合には、どこの病院で働いていようとも、人事は全て医局の意向で決まります。

この医局人事は毎年年末から年明け2月ごろまでに決定され、新年度4月からは新たな体制でスタートします。

働く場所、病院、仕事内容に関わることですから、医局人事は医局員にとっての関心も高いのです。

医局人事の概要

この医局人事は、企業で言うところの人事移動に当たります。

嫌な思いをしながら働いていた大学病院を離れて、晴れて希望する民間病院に就職できる先生もいれば、入れ替わりで、働きたくない大学病院に戻されてしまう先生もいます

若手の先生のあいだでは、泣く泣く地方の僻地の病院に飛ばされてしまったり、非常に付き合いにくい先輩の先生がいる関連病院に飛ばされてしまう先生もいます。

企業人事でいうところの左遷、と考えても良いかと思います。

どこの病院で働くかは医局の上層部が決めた指示に従うしかないですから、まさに運命といったところです。

若手医師にとっては、経験を積むためには医局に残るしかないですから、不本意な人事であっても涙ながらに派遣先に向かっていかなければなりません。

医局人事の決まり方

毎年秋ごろになると、来年度の希望調査と言うことで、勤務先の病院の希望調査用紙が送られてきます。

人事権は医局長にある場合が多いですが、最終的な決定は教授の権限を持って行われます。

医局員たちはその調査用紙に自分の希望を記します。上に書いたように医師の経験年数を考慮しながら、それぞれの病院に配分していきます。

もちろん医師個人の勤務地の希望や病院の希望も考慮されますが、全てが希望通りに動くわけではありません。

夫婦が医者で違う医局の場合は、勤務地が別々になるのは当たり前ですし、大学近くに分譲マンションを持っていたとしても、そのような事は全く考慮されません。

個々の事情を考慮するほどの余裕がないというのが、実情なのでしょうか。医局人事はおおよそ年末までには発表されることになりますので、そこから引越しの準備などを進めていくことにあります。

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医局人事は、全体を考えて決定される

人事の大前提は、大学病院や関連病院含めて、安定的に運営ができるような体制を目指すことです。

関連病院の人事があったとして、関連病院にも必要最低限の人員が配置されるように人事が行われます。

また関連病院では少ない人員で必要十分な診療を行う必要がありますから、ベテラン医師1名+若手医師のような組み合わせになることもあります。

一方では大学病院では下働きを行う若手医師と、研究を行うベテラン医師共にたくさんの医師が配置されます。

若い先生の人事の特徴

医局人事の中で一番の最下層は若手医師、特に後期研修医の3-5年目の先生です。

医局に入ってすぐの若い先生の場合には、あまり他の医者が行きたがらないような田舎の病院や、忙しい病院に派遣されることになります。

若い先生は独身だったり、子供がいても小さかったりすることが多いので、いろんな病院に転勤させるには都合の良い存在です。

またそれ以上に、忙しい病院に勤務させることによって、若いうちから経験をたくさん積ませると修行の意味合いもあります。

専門医取得前後の先生の特徴

一通り地方の病院を廻った後は、一旦大学に戻ってくることになります。

大学では大学院に入って研究したり、専門医に必要な症例を集めたり、大学で高度な医療を経験したりします。地方の病院で一通りの基本的な知識を学んでから、レベルアップする時期と言えるでしょうか。

大学病院で勤務する期間は、医師によっても異なりますが、おおむね4-5年と言ったところだと思います。

専門医取得後の人事の特徴

医師として7−10年目くらいになると、大学院を卒業したり専門医を取得したりと、医師キャリアとしてひと段落つくころになります。

キャリアに一区切りつくと、進路は大体2つに分かれます。1つは大学に残って臨床や研究を進める道です。

大学に残るには、研究で良い業績を挙げ続ける必要があるので、まさしく競争社会に身を投じることになります。

もう一つは専門医を取得してから民間病院に勤務し、臨床医として立派に働く道です。

40代前半くらいまでは、いくつかの病院を勤務していくことになりますが、それ以後は勤務する病院が概ね固定されてきます。

40後半〜60歳にもなれば、臨床経験という点でも素晴らしい医師ですし、臨床能力だけではなく、後輩を指導する側面というも要求されてきます。

大学病院は縦社会で教授の命令は絶対である

ドラマや小説では、大学病院における医局の縦社会を題材にした作品が多数発表されています。

特に有名なのは、山崎豊子さんが原作を書かれた白い巨塔でしょうか。

小説の中では、教授は絶対的な権力を有する象徴して描かれています。

大学病院における一番の権力者は各医局の教授になるわけです。

そして医局員たちは教授の命令には逆らうことができません。

教授に命令されるとなれば、割の良くない仕事であっても引き受けなければなりません。

教授が右といえば右、左といえば左です。たとえそれが間違いであったとしてもです。

医局派遣には逆らえない

その中でも特に医局派遣に関しては、逆らうことができません。

どんなに遠く離れた病院であっても、どんなにそこの病院が激務で恐れられていたとしても、新年度からは指示されるままに赴かなければならないのです。

この医局派遣・人事異動に従わないことは、すなわち医局からの脱退を意味します。

この辺りは企業の人事異動と同じくらいか、それよりも厳しい処置かもしれません。

その他、人事以外の不都合な命令であっても忠実に守らなければならない厳しい現実があります。

外科系の診療科はより厳しい

特にこの縦社会が顕著なのは、小説でもよく描かれる外科系の診療科です

元来の体育会系の気質があるからなのか、教授の命令は揺るぎないものになります。

了解不能な命令に関しては、異議を申し立て話し合うことがあるべき姿なのですが、如何せん医局という狭い社会ですから、何かしら発言する機会すら与えられていないのです。

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教授以外の上下関係は、必ずしも絶対ではない

ただし普段の病院業務での上下関係が厳しいかといわれれば、そこまででもありません。

もちろん医師としての経験年数が5-10年以上異なれば多くは上司の命令に従うのですが、絶対ではありません。

患者の治療方針や診療方針に関しては、ディスカッションすることはしばしばありますから、必ずしも厳しい上下関係が維持されているわけでもありません。

特に上司からの指示であったとしても、特に患者さんの治療方針に関わることなどについては、平等な立場でディスカッションすることもあります。

このような現実の背景には、医局における教授以外の上司には権力がない事実が挙げられるでしょうか。

教授に逆らうのは自分の首がかかっていることですから、おいそれとはできないのです。

医師にとっては個人の業績と同様に教授の評価が大切

基本的には、医者の世界における出世に関しては個人の業績が評価されます。

医者が順調に出世して教授になれるかどうかは、個人の書いた論文などをはじめとする研究業績ですから、これは必須です。

一方で自分の所属している組織の教授の評価は、個人の業績と同じくらいに重要です。個人の業績を積んでいくためには、教授の承認やサポートが絶対的に必要です。

教授と対立しながら業績を積んでいくのはほぼ不可能に近い状況です。

こいつに研究させるかどうか、論文を書かせるかどうかすら教授の権力に一人されているのです。

白い巨塔に出てくる財前も、直属の上司である東教授と対立した結果、教授選で苦戦を強いられることになるです。結局彼は教授になるのですが…

直属の上司の評価は意味ない

教授の評価が重要である一方で、直属の上司の評価はあまり重要ではありません。つまり権限のない直属の上司の機嫌を取ることはあまり意味がありません。

もちろん出世するためには環境も大切ですから、業績を挙げやすいように職場の評価を高めておくことは大切なのです。

一方で業績がない人間が上司に引っ張ってもらうとか、出世させてもらえることはないのです。

どんなに「こいつは飲み会の付き合いも良いし、いいやつだ」と上司に評価される医師がいたとしても、肝心の研究業績がなければ、絶対に教授になることはできないのです。

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医局長や教授に気に入られておくのは大切

医局長や教授は人事権を持った重要な役職ですから、気に入られておくのはすごく大切です。

人事権を持った役職の人間が特定の医局員を快く思っていない場合には、遠く遠くの地方病院に飛ばされてしまうかもしれません

一方で自分のいうことをなんでも聞く仲の良い医局員がいれば、自分のそばに置いておきたいと思うがゆえ、人事を優遇するかもしれません。

したがって、普段から良好な人間関係を築いておくことは、重要なわけですね。

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