臨床医、研究医として生活しているうえで避けられないのが抄読会ですね。これは最新の論文をみんなの前で紹介して、知識を共に深めようというイベントです。
研修医の場合には、どのようにしてみんなに分かってもらえる抄読会をするか、というのが大切ですね。
ここでは分かりやすい抄読会の方法について提案したいと思います。
コンテンツ
まずは英語論文のチョイスが大切
重要であり頭を悩ますのが、英語論文の選択です。
どのような専門分野であっても良いと思うのですが、少なくとも1年以内に出版されたインパクトのある論文を選ぶということが大切になってくるかと思います
抄読会の1番の目的は最新の知識を共有するという事ですから、やはり5年前、10年前の論文では出席者から冷ややかな視線を浴びせられてしまうかもしれません。
一方で最新の論文であっても、普段全く目にすることのないような雑誌に掲載されている論文は、みんなの貴重な時間を割いてまで紹介するほどではないでしょう。
インパクトファクターの重要性
どのような雑誌がインパクトのある研究を掲載しているかということに関しては、インパクトファクターが一つの指標になるかと思います。
インパクトファクターについては、インターネット上にランキングがあります。自分が紹介しようとしている論文のインパクトファクターがどれくらいであるか、ということが分かります。
インパクトファクターについては、こちらで調べることができます。
とはいっても、情報量が多すぎて分からない部分もあるでしょうから、「雑誌名」「impact factor(インパクトファクター」と検索するのが一番早かったりもします。
抄読会で使う論文といえば、基礎系だとインパクトファクター10点以上、臨床系だと分野にもよりますが5点以上は欲しいところです。
もちろん論文数の多い循環器系や消化器系とマイナー診療科では、ベースとなる論文雑誌のインパクトファクターが異なりますから、一概に言うことは難しいのですが…
臨床系であればLancet、NEJM、JAMA、BMJあたりに掲載されている論文を発表しておけば間違い無いような気がします。ただし施設によっては
「それくらいの論文には目を通しておくのは当たり前だよ」
みたいな空気があって、改めて抄読会で発表する必要がないレベルかもしれませんので、施設ごとの空気を読むことも大切かもしれませんね。
これも大切…抄読会の時間設定
抄読会の時間というのは、ある程度慣例で決められているものかと思います。だいたい20-30分くらいとかでしょうか。
人間の集中力というはご存知の通り限界があってそんなに長くは続かないですから、実りある抄読会という点では、せいぜい長くても30分ぐらいじゃないでしょうか。
学生時代に50分とか1時間の講義、学会で1時間のレクチャーを聞いたことがある方なら分かるかと思いますが、人間の受動的な集中力は大したことはありません。
ですから長くとも30分以内、可能なら20分くらいで抄読会が終わるように準備をしておく必要があります。
ときおり一つの論文について1時間近い発表をされる先生がいますが、はっきり言って長すぎます。一つの論文を発表するのに1時間は長すぎるわけで、聞いている方は疲れてくるか飽きてきます。
病院で働いている場合には他の業務もみな抱えているわけですからね。
1時間近い抄読会を何度も見聞きしてきましたが、内容が詰まっていないので大抵開始10分くらいで眠る出席者が出てきますし、時間が押している関係でディスカッションも盛り上がらない印象です。
抄読会資料の準備
抄読会が行われるのは、大抵の場合は朝の眠たい時間か、夕方の疲れた時間ということになります。たまに昼過ぎの時間に行われることがありますが、これも昼食後で大抵眠いことが多いですね。
つまり何が言いたいかと言うと、大抵の抄読会は人間が眠たい時間に開催されるのです。
眠たい時間に英語を用いて難解な論文を紹介しなければいけないわけですから、抄読会の1番のポイントは、いかにわかりやすくプレゼンテーションするかということになるかと思います。
私は抄読会の資料準備を行うときには「百聞は一見にしかず」と言うことをつねに考えています。
長々と英語の文章紹介するのはご法度であり、日本語の文章でもあってもなるべく避けるべきでしょう。
論文内にあるグラフや表は、視覚的に理解できる唯一の資料ですから、これは存分に使うべきなのです。
資料の作り方
これも診療科や病院によって違うので、なんとも言えないところです。絶対的な正解はないでしょう。
A3用紙1枚にまとめた資料を手元に用意する場合もあれば、論文そのものを印刷して使う場合、そのほかパワーポイントにまとめて発表する場合もあるでしょう。
一番わかりやすいのは、やはりパワーポイントのスライドにまとめて発表することになるでしょうか。
今回はパワーポイントにまとめた抄読会資料を作るという仮定で見ていきたいと思います。
発表の流れ
テンプレートというか、流れとしては下記のような形になるかと思います。
基本的には論文の記載通りの流れに沿って紹介するのが、出席者も違和感なく理解することができますね。
そしてそれぞれの抄読会に合わせて、時間を調整するのがベターです。
タイトル(著者情報なども含む)
要約(ごく簡単で良い)
背景(出席者がみんな専門家ならこれもごく簡単で良い)
方法
結果
考察
Title
1ページ目は、上記の画像のように論文の概要を示します。
論文のタイトル、著者、所属、雑誌名、出版年月などは必須項目です。
この辺りは基本情報ですから、是非ともタイトルページに入れておく必要があります。
論文のタイトルを切り抜いて貼り付けても、自分でコピペしても良いでしょうね。
タイトルページは無理に日本語にしなくても良いでしょう。しかしタイトル以下は日本語に訳した方がベターでしょう。
Abstract
スライド2-3枚くらいで、ざっと説明する感じで良いかと思います。
またアブストラクト自体は全て読んでも5分もかからないでしょうから、全部読んでしまってもよいでしょうね。
抄読会によっては、開始時間を過ぎてからぞろぞろと遅れてくる出席者もいるでしょうから、最初のうちは背景などを説明しながら、だらだらと本題に入るまでに時間を稼いでおくのも良いかもしれません。
Background, Methods
さてスライドの2ページ目からは、上記のように論文の内容を解説していく形になるかと思います。
英語のまま文章を掲載してしまうと、発表する方も言葉につまりますし理解する方も英語を読まなければならないので、すごくエネルギーを使います。
朝一番の眠い目をこすりながら、がんばって英語のスライドを読み続ける出席者は5人に1人くらいでしょうね。
ですから論文からコピペして英語のスライドにするのではなく、基本的にはスライド含めて資料は日本で作成してほうがベターです。
日本人ですから日本語の方がわかりやすいのは間違いなしです。
背景、方法についてはどのようにまとめるかは、論文や抄読会の位置付けにも依ってくるでしょう。
皆が同じような研究、臨床をしているような抄読会の場合には、出席者はみなさん背景を共有しているわけですから、研究の背景について改めて深く解説する必要もないでしょう。
むしろその場合には、論文の研究方法について参考にしたり、批判的な意見がでる場合が多いですから、方法について突っ込んで紹介する必要があるかもしれません。
一方で出席者のバックグランドが曖昧で、テーマが絞られていない場合には、論文の背景を共有しておく必要があるでしょう。
そしてその場合には深い議論を行うのは難しいですから、方法論についてはスキップしても良いでしょうね。
このあたりの比重の置き方は、抄読会の出席者の顔ぶれを考慮する必要がありそうです。
Results
抄読会では一番重要な部分でしょうか。結果の発表です。
論文においても結果は重要ですから、必ずやグラフや表が掲載されているかと思います。
論文と同様に、抄読会においても結果については文章ではなく、視覚的なもので提供すべきです。
スライド一面に結果についてダラダラと文字を書かれるよりは、Figureなどで一発で紹介された方が、出席者の理解は格段に深まります。
英語や日本語の文章で詳細に説明するよりも、グラフや図を大きく示した方が理解は容易です。
簡単な説明文章を付しそこに自らの言葉で解説を超えた方が、聞いている方は理解が格段に高まると思われます。
Discussion
論文の考察にあたる部分です。
大抵の論文ではDiscussionについてあること・ないことダラダラと書かれていますから、全部を取り上げる必要はないでしょう。
論文の中では書く方も読む方もかなり重要な部分を占めるdiscussionなのですが、なぜか抄読会だとススッと読みとばされる場合が多いですね。
発表者の興味のあるところ、抄読会で議論になりそうなところだけ取り上げれば良いかと思います。
あまり盛り上がらない抄読会であれば、あえて取り上げず、早く終わらしてしまった方がみんなハッピーということもあるでしょうね。
より良い抄読会を目指して
自分の発表方法をより良くするための一番の方法は、他の人がやっている発表手法を取捨選択することです。
毎回抄読会の発表を評価する立場で聞いていると、自ずと理解しやすい発表とそうでない発表が分かってきます。
論文に書いてある英語の文章をただ和訳するだけの発表や、一面に英語が羅列されたスライドを出され続けるのは聞いている方はすごくつらいんですよね。
ですからこういう発表の方法は出席者の時間を無駄にしないためにも、厳に慎むべきです。
一方では出席者のほとんどが目を開いて、なんとなく顔を上げているような発表もありますね。このような発表者の手法を学ぶべきなのです。
参考サイト(最後に)
ちなみに抄読会の手法として、大阪大学呼吸器科・免疫内科のホームページが非常に参考になります。
さすが大阪大学。質の高い抄読会が開催されているものと推察します(ハードルが上がってしまうので筆者は参加は遠慮ですが)。ぜひご一読ください。
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