【医療ニュース】28人の医師処分へ 精神保健指定医の資格を不正取得

精神科領域で重要な資格である、精神保健指定医の不正取得に関するニュースです。

重い精神障害がある患者に強制的な入院が必要かなどを判断する「精神保健指定医」の資格を不正に取得したなどとして、厚生労働省は28人の医師を業務停止などの処分とすることを決めました。

厚生労働省は、25日、医師などの処分を検討する審議会を開き、28人の医師について、1か月から2か月の業務停止や、戒告の処分とすることを決めました。

これらの医師は、重い精神障害がある患者について強制的な入院が必要かなどを判断する「精神保健指定医」の資格を得る際、不正な申請を行ったり、上司として部下の不正のチェックを怠ったりしたということです。

NHKニュース

精神保健指定医について

精神保健指定医とは、精神科の医師にとっては必須の資格です。

精神科の分野では、精神科の救急外来にやってきた患者を診察することがあります。

救急でやってくる患者はたいてい暴れ回って手がつけられないとか、今にも家族の誰かを殺してしまいそうとか、差し迫った状況の患者さんが多いわけです。

病的に誰かを殺してしまいたい、と考えている精神疾患の患者を、そのまま家に返すわけにはいきません。

もしかしたら病院から家に帰るまでに、傷害事件や殺人事件を犯してしまうかもしれません。

そのような状況の患者の場合には、精神保健指定医の権限を持って強制的に入院させることができるのです。

人権の観点から

医師が判断して強制的に入院させるというのは、非常に大きな意味を持ちます。

健常者を特別の理由もなく強制入院させるというのは、これは人権侵害以外何者でもありません。

ですから、入院させるかどうかに関しては高度な医学的判断が要求されます。

そして、そのような権限を持ったのが精神保健指定医になるわけです。

ちょっと暴論ですが、気に入らない人間を無理やり精神疾患にかかっていると決めつけて、強制入院させてしまう荒技も可能になってしまう資格なのです。

指定医を取得するための要件

東京都福祉保健局によると精神保健指定医を取得するためには、5年以上の実務経験と、3年以上の精神科勤務が必要とされているようです。

研修医の期間も含めると、医者6年目から、申請、取得ができるということでしょうか。

また、申請にあたってはケースレポートを提出する必要があるようです。

勤務経験については、2年しか勤務していないのに3年勤務した、と嘘をつくのはかなり困難なので、実際に不正があったのはこのケースレポートの部分なのでしょう。

資格を得るには、みずからが一定の期間以上診察した症例の報告が必要ですが、十分、関わっていない症例を報告していたということです。
ただ、この十分関わっていない、所の判断はすごく微妙な判断が求められます。

症例報告の曖昧さ

この症例報告によって専門医試験をパスするのかは少し曖昧になってしまいます。

精神科の分野に限らず○○専門医を取得するためには、このような症例報告とか、10例や20例といった、申請に必要な経験症例を学会に報告する必要があります。

この「経験した症例」というのはなかなか線引きが難しく、主治医として、または指導医と共に患者さんの診断、治療に関わっていれば胸を張って経験症例と言えるでしょう。

一方で、主治医が不在の時には患者さんの対応をしたとか、薬を処方しただけ、というような場合には、果たして経験症例といえるのか、ということになってきます。

これまでの現実

本来であれば主治医として患者さんを診察し、その事実を持って症例報告とするのが理想なのですが、それが難しい場合もあります。

真面目に病院で働いていたとしても、当然病院によって症例の多い少ないや、偏りは生じてきます。

場合によっては、専門医や指定医の申請を行うために、わずかしか関与していない患者さんであっても、さも自分が経験した症例のように症例報告として書類を提出することもあるでしょう。

これは決して精神科に限ったことではなく、疾患ごとの経験症例数が要求される他の診療科でも、半ば黙認されてきた現実があると思います。

病院側、診療科側としても、勤務している医師が1年でも早く専門医・指定医を取得することによって、病院の収益がUPする場合もありますし、何より自分たちの負担が軽減されることもあります。

専門医取得に向けたレポートを完全に縛って行おうとすると、非常な労力が必要です。

同じような例はいくらでも埃は出てくるだろう

精神保健指定医の分野に限らず、あらゆる専門医の申請書、症例報告に関して詳細に調べれば、主体となって症例を経験していないのも関わらず、経験症例として提出している例はいくらでもあると思います。

このようなグレーな症例報告を持ってして専門医を取得している先生であっても、極めて優秀な医師はいくらでもいるでしょう。

今回のニュースは、皆が見て見ぬ振りをして淡々と進めてきた専門医の取得に釘をさす行為であったのではないかと推察します。

ただし上記のような現実を考慮すると、専門医の申請要件を緩くするか、ヒト・モノ・カネをかけてチェック体制を強化していくしか解決策はないのではないかと思います。

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