NEJM症例問題:62歳男性・主訴は高血圧、失神発作

62歳男性

主訴
失神発作、体重減少

現病歴
12年前より高血圧を指摘されていた。5年前に高血圧性脳出血、多発性脳梗塞で入院。退院後から横になると数秒で回復する失神発作があった。1年前より同様の発作が頻発するようになり、気分不快感、便秘、頭痛、失神発作時の異常発汗があり、3ヶ月で5kgの体重減少があった。動悸、息切れの自覚なし。

既往歴、家族歴、生活歴
特記すべき事項なし

身長160cm、体重42kg、血圧160/80mmHg、脈84でregular
神経学的陽性所見なし、生化学検査では血糖、コレステロール高値、甲状腺ホルモン値正常。

診断は?

まずは失神の鑑別から

失神の定義は「脳血流低下による一過性の意識障害」です。

上のFigureで挙げられている起立性低血圧、脳血管性、心臓(不整脈、心血管性)、神経性に加えて血管迷走神経反射なんかが挙げられます。

この症例の場合は「動悸、息切れ」の自覚がなく、神経学的所見も陰性で、「横になると数秒で回復する」ということを合わせて考えると起立性低血圧が疑われます。

ただし、血管迷走神経反射や中枢神経障害(脳出血、脳梗塞)に起因する自立神経失調を積極的に否定する所見もないのですが。

起立性低血圧の機序

起立時の血圧の維持機構のひとつに
血圧低下 ー 交感神経ー副腎経路の活性化 ー カテコラミンの放出 ー 血管収縮、心拍数上昇 ー 血圧上昇
があります。

起立性低血圧の原因には脱水などによる循環血液量の減少、薬剤(α1ブロッカー、精神疾患分野の薬)、自立神経失調などがあります。

この症例では薬剤の服用歴は特になく、薬剤は否定的です。上に書いたように起立性低血圧の領域における自律神経失調、に起因する疾患を積極的に否定する事はできません。

ということで、気分不快感、便秘、頭痛、失神発作時の異常発汗、血圧、脈、体重減少などを総合的に含めて考えます。

気分不快感が起こる理由

便秘、気分不快感、頭痛、血圧160/80、脈84などは交感神経刺激症状と矛盾しません。(正確な機序はNEJMのCase-Reportにもなく。甲状腺やこういう疾患でなぜ頭痛や気分不快感が出るのか知りたい)

失神発作時の異常発汗は、血圧を維持しようと起立時に交感神経が過剰に興奮する事に由来します。

体重減少は代謝の亢進、腫瘍、Intakeの減少などを疑わせます。

症状を総合的に考える

この症例の起立性低血圧は
1、カテコラミンへの慢性的な暴露によって受容体がダウンレギュレーションすることによるカテコラミンへの反応性の低下

2、カテコラミンへの慢性的な暴露によってレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系が抑制されることによる循環血液量の減少

の2つの機序によって引き起こされているものと考えられています。

ということで、症状を総合的に考えると褐色細胞腫(Pheochromocytoma)が疑わしいという結論に至ります。

参考文献

Case 14-2010; A 54-Year-Old Woman with Dizziness and Falls
Martin A Samuels, Benjamin J Pomerantz, Peter M Sadow. The New England Journal of Medicine. Boston: May 13, 2010. Vol. 362, Iss. 19; pg. 1815

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