数年前に比べると、セカンドオピニオンの制度は随分と身近になった感じがあります。
セカンドオピニオンを求めて他院を受診する患者さんもいますし、逆にセカンドオピニオンを求めて受診してくる患者さんもいますね。
ここではセカンドオピニオンを受けることについて、良いこと、悪いことについてご紹介したいと思います。
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セカンドオピニオンとは
さて、セカンドオピニオンって何でしょう?
基本的なことについてまずは考えましょう。
医療の分野の場合、患者が検査や治療を受けるに当たって主治医以外の医師に求めた「意見」、または、「意見を求める行為」。
主治医に「すべてを任せる」という従来の医師患者関係を脱して、複数の専門家の意見を聞くことで、より適した治療法を患者自身が選択していくべきと言う考え方に沿ったものである。
特にがん治療の中で使われる用語かと思います。
つまりは現在の病院からは手術を提示されているけれども、違う治療ができないかどうか、最適な治療は何であるか、異なる医師や病院の意見を聞くことを指します。
その中で異なる病院を受診する場合には、「セカンドオピニオンを求めて受診する」といいます。
がん治療では何よりも標準治療を行うことが大切
セカンドオピニンオンについて述べる前に、まずは標準治療をしっかりと受けることが大切です。
現在のがん治療においては、病気の進み具合に従って、ガイドラインに示されている標準治療を行うのが最も確実な治療法です。
したがって極めて高度な判断が求められる病状は別として、大抵の場合は治療方針がだいたいどこの施設でも同じように決定されることが多いかと思います。
健康な成人における早期胃癌の症例であったとして、いきなり放射線治療とか免疫治療など、適応外の治療は絶対に提示されないわけです。
しかしながら雑誌やインターネット上には、ある事ない事、患者さんを惑わすようなたくさんの医療情報があふれ、それらの情報によって治療の開始が遅れている患者さんが多くいることを強く実感します。
セカンドオピニオン自体は素晴らしい制度なのですが、あまりにもセカンドオピニオンの固執しすぎるが故に、一部の患者さんにとっては不利益になっている場合もありますから、そのあたりのバランス感覚は難しいところですね。
セカンドオピニオンで治療方針が変わることはあるか
ガイドラインには、患者さんごとの治療方針が示されているわけでありますが、病院ごとによって治療方針が変わるのは全く珍しいことではありません。
手術が得意な病院や、医師や看護師などのスタッフが充実している病院では、より外科手術が選択される傾向にあります。
また放射線治療が熱心な病院では、そちらが選択されることもあるでしょう。
特に大学病院なんかではリスクのある症例であっても積極的に手術を行うことが多いでしょうから、地域の病院で手術はできないと言われても、意外とすんなりできてしまうことがあるようです。
私も大学病院で働いている際には、他の病院で「手術できない」とされた患者さんたちが、次々手術されていく様子を見てきました。
もちろん手術=良いことと断定することはできませんが、治療の選択肢が広まることは患者さんにとってプラスでしょう。
ほとんどの場合は治療方針変わらず
ただし、8割くらいの患者さんに関しては病院ごとによって治療方針が大きく変わることありません。
もちろん治療方針が大きく変わる患者さんは少なくありませんが、少数派と言って良いでしょう。
大抵の場合はセカンドオピニオンで受診されても「前医の意見を支持します」というような判断をする場合が多いかと思います。
セカンドオピニオンは万能ではありません。
セカンドオピニオンの意義
ではセカンドオピニオンの意義とは何であるか。
それは複数の病院、複数の医師の目線から、今現在の病状に対してどの治療方法が適切なのか評価してもらうことに尽きるでしょう。
それによって治療方針が変わることがあれば、より良い治療を享受することができる可能性があります。
また仮に治療方針が前医と同じであったとしても、セカンドオピニオンには重要な意義があるでしょう。
提示された方針が前医と同じであったとしても、
「やっぱりこの病院でも同じ方針だったか」
と治療について納得した上で治療を受けることができることではないでしょうか。
信頼できそうな医師から提示された治療であっても、やはり患者さんとしては他のもっと良い治療方法がないのか知りたくなる気持ちは当然です。
多くの人に意見を求めるのは、すごく大切なことです。
正しいセカンドオピニオン先の選び方
セカンドオピニオンを受けるにあたっては、必ず心得ておくべきことがあります。
それはいま受診している病院よりも、経験豊富で規模の大きい病院を選ぶことです。
治療の選択肢が広がる可能性がある病院というのは、多くのスタッフがおり、症例数も豊富な大規模病院に限られます。
東京にある大規模病院から地方の中小病院にセカンドオピニオンに向かったところで、より良い治療が受けられる可能性は高くないでしょう。
いまいる病院よりも高度な病院に意見を聞きにいくのが必ずや必要です。
セカンドオピニオンの実際の流れ
セカンドオピニオン制度を受けるためには、現在の主治医に勇気を持ってその意思を伝える必要があります。
ここではセカンドオピニオンを受診する際に必要なことについて、現場目線でご紹介したいと思います。
国立がん研究センター中央病院のホームページには、下記のような記載があります。
セカンドオピニオンに必要なもの
- 患者さんご本人の保険証(コピー可)
保険診療ではありませんが、身分確認のためにご提示ください。- 紹介状(診療情報提供書)
- 画像検査結果(CD・DVD・レントゲンフィルム)
- 可能なら、病理レポート
- ご家族のみで来院する場合、患者さんご本人の「相談同意書(PDF:93KB)」、面談されるご家族全員の身分証
注:病理標本は、持参いただいても対応できません。病理相談外来の手続を行ってください。
料金
自費 43,200円(税込)
国立がんセンターはがん治療における日本の最先端施設であり、色々な臨床試験も行われています。
国立がんセンターの治療方針こそ標準的で間違いのないものでしょうから、セカンドオピニオンに訪れる患者さんは数多いのかもしれません。
上記に挙げられている必要なものは、極めて一般的なものと言って良いでしょうね
セカンドオピニオンで必要なものこと
次にセカンドオピニンオンで必要なことについてご紹介しましょう。
セカンドオピニオンで受診する病院を決定する
まず必要な事は、セカンドオピニオンで受診する病院を決定することです。
このとき受診すべき病院は、今の病院よりも規模が大きく、病気に関してより治療経験のある病院にすべきです。
基本的には大学病院やがんセンターなどをセカンドオピニオン先に選択しておけば間違いは無いかと思います。
時折セカンドオピニオンでやってくる患者さんのカルテを見ていると、手術件数が全国トップテンに入る病院から、セカンドオピニオンを聞きにきている患者さんもいたりします。
手術件数が全国でトップテンに入るような病院は、たいていは大規模な病院で、医師の数も揃っていて、がんに対する治療方針もしっかりとしているでしょう。
したがって、これらの病院から異なる病院にセカンドオピニオンを求めたとしても、より良い結果が得られる可能性はあまりなさそうです。
現在お世話になっている病院のレベルがどれほどなのか、またセカンドオピニオンで受診しようとする病院がどの程度のレベルなのかをしっておくことは、非常に大切であるといえるでしょう。
紹介状(診療情報提供書)・画像検査結果を送付してもらう
セカンドオピニオンで受診する病院を決定した後は、今かかっている病院の主治医に診療情報提供してもらうことが必要です。
これまでの経過を記した診療情報提供書を始めとして、画像データや血液検査の結果などを提供してもらうことが必要です。
また肺癌や食道癌といえども、病理結果=細胞の種類によって治療方針は大きく変わって来ますから、病理結果も必須と言えるでしょう。
ただし提供する側の医師によっては抜けて落ちてしまう部分もありますから、なかなか難しいところです。
患者さんのがん治療適応を決定するためには、高度な判断が求められますから、患者さんに関する情報はできるだけ多い方がベターです。
病院によっては30枚近くに及ぶ資料の提供をしてくれるところもあれば、経過を書いたA4の紙1枚と最低限の画像検査しか送付してくれない病院もあります。
セカンドオピニオンを希望して主治医は嫌な顔をするのか?
さてこのようにセカンドオピニオンを求めることで主治医は嫌な顔してしまうのでしょうか。
その可能性はおそらく低いでしょうね。
今やセカンドピニオンは病院の中でも市民権を得た言葉ですから、適切な状況でセカンドオピニオンを聞きに行くとしたところで、あからさまに機嫌が悪くなってしまう医師はいないでしょう
患者さんが納得の上で自らの治療を受けるのは当然の権利ですし、他の病院の意見を聞いた上で治療に入るのは、決して無駄なことではありません。
残念ながら明らかに無駄なセカンドオピニオンもある
ただし患者さんの中には、明らかに「手術が良い」「抗がん剤治療しかない」ような状況で、セカンドオピニオンを希望される患者さんもいます。
どんな素晴らしい抗がん剤であっても、手術以上に根治性の高い抗癌剤はないですし、どんなに腕の良い外科医であっても、できない手術はあります。
このような、意義の薄いセカンドオピニオンをどのように少なくするかは難しいところなのですが、残念ながら治療開始までが遅れるだけの結果になることも少なくありません。
それにいろいろな病院を回るうちに、あやしい治療に入り込んで、本来であれば治るはずだった病気がどんどん進行してしまうリスクもあります。
メリット・デメリットを考える
したがって、セカンドオピニオンを受ける際には、そのデメリットを十分に認識しておくことです。
セカンドオピニオンは良いことばかりではありません。
セカンドオピニオンのデメリット:治療開始が遅れる
デメリットの一つは、治療の開始が遅れてしまうことです。
いろんな人の話を聞くには、時間がかかります。
以前、私たちの外来にセカンドオピニオン目的にやってきた患者さんの中に、比較的進行の早いがん患者さんがいました。
その患者さんは1番最初にがんと診断された病院から、客観的に考えて真っ当な手術治療を提示されていたのですが、患者さんや家族はその治療に納得できなかったようです。
そして色々な病院を渡り歩き、私たちの外来にやってきた時には、がんと診断されてからすでに2ヶ月近くが経過していました。
当然のことながら、こちらから違う方針を示せるわけもなく、一番最初の病院でなるべく早く手術をしてもらうように提示しました。
結局のところこの患者さんにとってみると、治療を急ぐ状況にありながら治療開始まで2ヶ月以上時間が経過してしまいました。
大規模病院を受診する場合には、2-3週間程度待機することも珍しくありません。
セカンドオピニオンは大切なことでありますが、結果的には無駄な時間を過ごしたことになってしまったのです。
他のデメリットは??
他のデメリットも書こうとしてみたのですが…特に思いつきませんでした。
細かいことを挙げると労力とか、金銭的な問題などありますが、他社の意見を聞くという点においては、セカンドオピニオンのメリットは決して小さくなさそうです。
セカンドオピニオンを受けた後、元の病院に戻っても良いか?
セカンドオピニオンを聞きに行った後に、やっぱり自宅から近い最初の病院で治療を開始するのも全然オッケーなわけです。
実際にはセカンドオピニオンを聞きに行ったはいいけれど、最初に診断された病院で治療を開始すると言う例がほとんどかと思います。
セカンドピニオンはあくまで意見を聞きに行くための病院受診ですから、必ずしもセカンドオピニオン先の病院で治療しなければならない訳ではありません。
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