【医師の視点】ANA Doctor on boardは考えもの。医者に厳しいシステムかも

ANA doctor on boardは、直訳すると「機内に搭乗している医師」という意味になろうかと思います。

機内で急病人が出た時に、医師がスムーズに救護できるようなシステムのため、あらかじめ医師を登録しておこう、そういうシステムのようです。

ただ、ちょっと待ってください。良い制度なんでしょうか?

ANA Doctor on boardの概要

最近、JALで機内に登場した医師の登録制度がはじまっていたことが話題になりましたが、ANAでもはじまっていたんですね。

制度の概要は下記の通りです。

ANA Doctor on boardは機内にて急に具合が悪くなったお客様に、客室乗務員が「ドクターコール」(アナウンスによる医療関係者の呼び出し)をせず、当制度にご登録いただいた医師の方に医療処置の協力依頼をさせていただく制度です。

なお、当制度の運用は2016年9月1日搭乗便より開始いたします。

※登録された医師の方でも、体調不良などにより対応が困難な場合は、その旨を客室乗務員へお伝えいただければ、ご辞退いただくことも可能です。

※実施いただいた医療行為に起因して、医療行為を受けられたお客様に対する損害賠償責任が発生した場合、故意または重過失の場合を除き、ANAが主体となって対応させていただきます。

ANAホームページ

ANA doctro on boardは納得できない制度である

ん〜医者の私から見てもちょっと満足できない文面ですね。

まず体調不良だからって断れるのか、っていう話ですよね。機内で急病人が出たとして

CA「〇〇先生、ご対応お願いしても宜しいでしょうか?」
私「無理っす」

なんて言ってもいいもんですかね。

だって病院にいたら、体調不良でも外来に出たり手技やったりしなきゃいけない場面があるわけですからねぇ。

実際のところ拒否権はないようなもんだと思いますが・・・。

一番問題なのは、過失が発生した場合のことですかね。

訴えられやすい今の医療環境では、機内での医療行為は難しい

今の医療業界はありえないことで訴訟になって、医療者側が負けているのがスタンダードになっています。

点滴の薬を間違えたとか、こっそり研修医が手術したなどの事案であれば、裁判になって医療者側、病院側が敗訴するのも理解できるのですが、そうでない場合は納得できない訴訟も多いのも事実です。

例えば開業医で難しい病気を見逃されてしまったとか、手術の起こりうる合併症で患者が死んでしまったなど、結果論を元にして裁判が行われ、医療者側が敗訴してしまう事例が多くなっています。

どんな検査や治療であってもそうですが、医療には不確実性がつきものです。たとえ正しいと思うことをやったとしても、最善の結果につながるとは限りません。

それは医療者側は当然であり、そのことについては患者側にも十分説明はしています

もちろん病院や医者によって説明不足という場合もありえますが・・・

しかしながら結果が悪いと容易に訴えられて裁判になってしまうことが非常に多く、残念に思っています。

ANA doctor on boardの説明の欄には「故意または重過失の場合を除き」と言う文言がありますが、いざ裁判になってみればおそらくこれは何とでも解釈が可能でしょう。

生命に直結する心筋梗塞や大動脈乖離を見逃してしまえば、それはたとえ検査がほとんどできない状況であっても、重過失とみなされてしまうかもしれません。 

損害賠償についての項目もちょっと満足できない

損害賠償が発生した場合と言うのも意味がよくわかりません。

そもそも善意で「医者です!」と名乗り出て医療行為をタダで行うのに、どうして損害賠償が発生してしまうのでしょうか?

医療行為をすればANAマイルや商品券などのわずかな報酬、失敗すれば数千万から数億円の損害賠償があるのが医療訴訟です。

報酬を目的に医療行為を行うわけではありませんが、これではあまりにもリスクが大きすぎます。

これは道行く人に「すみません、この荷物持ってください」と言いながら、

でももし落としたら1000万円賠償してくださいね」と言っているようなものです。

ANAが主体となって対応するという文言も無責任ですね。

厳しく解釈すれば、航空機内で医療行為行った医師たちにも、責任が問われる可能性がある、とのことなのでしょう。

医療者が安心して参加できる制度にするために

医者に限らず、医療者が率先して人助けができるようにするために、いくつか制度を変更する必要があるでしょう。

まず一番大切なのは機内での医療行為について、その結果責任を医療者に問わないようにすることが必要でしょう。

誰だって急病人を苦しめようと思って、人助けをしているわけではありません。

純粋な善意から立ち上がり、緊急事態に医療行為を行なっているわけです。責任を問われるようなことがあっては、誰も手を挙げる人がいなくなってしまいます。

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