医学書を英語で読むことにはいくつか利点があります。まずは、英語に対するハードルをなくすことです。
大学病院などのアカデミックセンターで働く場合には、論文を読む抄読会、海外講師の公演、国際学会での発表、論文の執筆など、英語とはきってもきれない関係になります。
もしこれらの施設でのキャリアアップを目指すのであれば、良質な英語論文を量産する必要がありますから、英語能力はマストになってくるわけです。
もう一つの利点は、英語の教科書の方が質が良いことです。
英語の教科書と日本語の教科書では、販売されているマーケットの規模が違いますから、当然英語の教科書の方が頻繁に改訂されますし、中身の質も優れたものになります。
さらに、発行部数を考えると英語のテキストの方が価格的にもリーズナブルになっています。
日本語の教科書でも名著とされる医学書のうちのいくつかは、そもそも英語のテキストを日本語訳したものだったりします。
専門分野になると日本語の教科書などは存在せず、原著のみしかない場合もあります。ですから医師と英語は切っても切れない関係といっても良いでしょうね。
下記では、学生時代に原著で読んでおくと有用な教科書を列挙しています。
病理学
Robbins Basic Pathology
有名なロビンスの教科書の原著になります。
Basic pathologyとはいうものの、内容量は専門科目の講義で学ぶ内容量からすると十分と言えるでしょう。
英語は非常に平易に書かれていますので、すらすらと読み進めることができるかと思います。英語の教科書への入り口としては、ぜひオススメしたい教科書です。
ただし、病理画像は十分とは言えませんので、アトラスは下記の本を購入することになるでしょうか。
Robbins & Cotran Pathologic Basis of Disease
こちらはロビンスのアトラス本になります。
USMLE step1では重要なテキストになります。ロビンス原著の補足という点では申し分ないですが、通常の医学部の病理学実習で使うにはやや物足りません。
薬理学
Principles of Pharmacology
英語を読むにしてはややヘビーですが、説明は理論的で非常に理解しやすい教科書ですので、薬理学はこの一冊に決めて、読み込んでも良いかもしれません。
Lippincott’s Illustrated Reviews: Pharmacology
内容量は標準的な薬理学書よりやや少ないくらいで、基礎講義と平行して使うにも十分な内容量があります。
リッピンコットシリーズは日本語訳にやや難があることも多いので、どうせなら原著で読んでしまうのも一つの手かもしれません。
細菌学
Clinical Microbiology Made Ridiculously Simple
試験対策、USMLE対策というのを念頭に書かれた教科書で、微生物の画像などは一切掲載していない。USMLE対策としては微生物学分野において圧倒的な支持を得ている。
暗記しやすいように印象に残るようなイラスト、語呂が書かれている。本文は箇条書きではないものの、試験前にレビューできるように明快、簡潔に書かれている。
Review of Medical Microbiology and Immunology
英語が書かれた細菌学の標準的な教科書といったところでしょうか。
あくまで基礎講義と平行して使う教科書であり、和書だと「標準微生物学」という位置づけになるでしょうか。
免疫学と微生物学は密接に関連しており、本書は免疫学の内容も含んでいます。
カラー写真、レイアウト、アウトラインから治療までの流れは至って標準的です。10版以上まで出版されており、教科書としての使いやすさは申し分ありません。
USMLEを意識したQ&Aが掲載されているのが米国らしいですね。
解剖学
Gray’s Anatomy for Students
グレイ解剖学の原著です。イラストが多く掲載されており、研修医や臨床医になってからも非常に役立ちます。
発生学
Before We Are Born
発生医学の要点だけをまとめた200-300ページの教科書です。英語の分量的にも、通読に近い分だけ読み込むことは、十分可能だと思います。
生化学・分子生物学
これら原著の和書の解説はこちらです。
Lippincott’s Illustrated Reviews: Biochemistry
Essential Cell Biology
Molecular Biology of the Cell
分子生物学における名著で、英語版は頻繁に改訂されています。
他の洋書と比較しても、かなり平易な英語で書かれてあります。だらだらと文章が続いているのではなく、1ページに1トピックくらいにまとめられているので、長々と英語を読み続けて路頭に迷う事もありません。
これくらいであれば、わざわざ日本語の教科書ではなく、本書を購入するのも十分選択肢かと思います。
生理学
和書のレビューはこちらに掲載しております。
Ganong’s Review of Medical Physiology
生理学の標準的な原著です。
Pathophysiology of Heart Disease: A Collaborative Project of Medical Students and Faculty
ハーバード大学の心臓病テキストです。
神経科学
Principles of Neural Science
神経科学のテキストとして名著である。Amazonの評価もさることながら、Wikipediaにも本書を紹介するページが開設されており、本書の素晴らしさが伺える。
本書は1400ページにも及ぶ大作であるが、その内容は最新の知見を取り上げていながら非常に分かりやすい。
もちろんイラストや画像が豊富にある。そして嬉しい事に英語が平易で読みやすい。
臨床医学
★★★ Harrison’s Principles of Internal Medicine
2700ページにも及ぶ内科学の名著で、現在まで原著は20版近くまで出版されている。
内容は常に最新のものとなっており、臨床で役立つ実践的な内科学書である。
疾患の治療に関する説明は、薬剤の選択、薬理作用、副作用などが非常に詳細に書かれており、これらをまとめただけでも1冊の薬理本になりそうな勢いである。HIVや肝炎の治療に関しては読めたもんではない。
また分冊になっているとは言え相当ボリュームがあるので、携帯には向かない。内容量、重量感から考えてもあくまで辞書的に使うべき教科書である。
ちなみに原著18版の時点で、日本語版は第3版までしか出版されていないようである。最新の知見を手に入れ、将来に備えるためにも是非原著を購入される事をおすすめする。
Blueprints Obstetrics and Gynecology
blue printsシリーズの産婦人科分野本。”a concise review”となっているが、医学部の臨床講義、病棟実習、試験対策など(特にstep2)いろいろな使い方ができるマルチな教科書となっている。step1対策としても高い評価を受けている。
内容量としては、医学部の臨床講義で学ぶ内容の8割をカバーいているといったところか。詳細まで丁寧に説明してあるというわけではないが、だいたいのことは書いているので使いやすい。
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