3月は医師国家試験の合格発表も終わり、4月からはいよいよ研修医、という医学生も多いかと思います。
私も研修医になる直前の3月は、期待と不安が2:8くらいで入り混じった状況でした。そうなんです。不安のほうが大きかったですね。
ああ、これからは一生奴隷として生きていくんだ、とか、ああ、これからはサボりたくでもサボれないなぁ、なんて思っていました。
今になって思うと、あながち当時考えていたことは間違っていなかったと思うわけですが。。。
何年か医師として働いてきて、いろんな話を聞いてみて、研修医の先生方の働きぶりについて、思うことがあります。
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研修医の待遇は以前に比べてよくなった
少し前までは、研修医というのはろくな給料ももらえず、勉強する身分であるがゆえに必死に働くと言うのが美しいものとされていました。
現在の病院内部で中堅〜ベテランとして頑張っている、40代以上の先生はおそらくそのような生活を送ってきたのだと思います。
飲み会等の席で、先輩の先生方の研修医時代の話を聞いていると、凄く大変だったんだろうなぁと言う感想が浮かびます。
いや、本当に自分たちの時代よりも大変だったと思います。
しかし時代は大きく変わってきました。
どこの病院でも研修医に対して安いとはいえど生活するにはそこそこ困らないくらいのお給料は支給されるようになりました。
また労働時間の管理や精神的なストレスということに関しても、少しずつ関心が持たれてきました。
これは決して2010年代に生きる研修医が甘やかされているということではなくて、一般企業では当然とされていることが、ようやく医療現場にも取り入れられてきた、というただそれだけなのです。
それでも今の医師・研修医の働き方が異常である
労働環境の改善の兆しがみえる医師の世界ですが、それでも異常なことは多々あります。
平日の当直をおこなした後の翌日通常勤務だったり、休日出勤の振替休日がないなど、一般企業では考えられないことがまかり通っています。
こんなことは看護師など他の医療職や交通系の業界ではあり得ないことですからね。
研修医時代には頑張るべきかどうか
研修医時代に関して「がむしゃらに頑張ったほうがいいよ」と話す先生がいます。
一方で「どうせ研修医なんだからそんながんばらなくてもいいよ」と話す先生もいます。
研修医時代は頑張った方がいい派
研修医時代にがんばった方が良い、と主張するのは、やる気に満ち溢れている若手〜中堅の先生が多いですね。
大抵その先生方も頑張ってこられたことが多いようです。
頑張った方がいい派の理論としては、とにかく鉄は暑いうちに打てとか、研修医のうちにしか経験できないことを経験せよとかおっしゃいます。
他には当直をしてたくさんの患者さんを診察することでレベルアップできるとか、少しばかり精神論が混じっていることもあります。
たいてい、こういうことをおっしゃる方は、研修医のときは給料などは気にせず、がむしゃらに働くべき、といったやや時代錯誤的な考えを 持った先生が多いように思います。
とりあえず頑張ることが良い、というような考えの元に動いている先生方なのかもしれません。
研修医時代は頑張らなくても良い派
どちらかという私もこちらのタイプです。
こちら側の意見としては、どうせ専門の研修に入ってしまえば、研修医で学んだ知識なんて忘れてしまうというのがメインの意見でしょうか。
所詮は研修医なんてお客さんなのだから、頑張ってもそれに見合うだけのリターンはない、などとおっしゃる先生もいます。
こちらの一派は、マイナー科の先生に多いように思います。適当にやってればいいよ〜みたいな軽いノリの先生方でしょうか。
結局研修医時代は頑張った方が良いか、頑張らなくても良いか
医者になってある程度年数が経ちますが、どっちの理論が正しいかと言うのは、かなり難しいですね。
言うなればどちらも大切だと思います。
私はどちらかと言うと、研修医時代にあまり頑張らなかった方なのですが、研修時代にすごく頑張ると言うことに関して否定するつもりは全くありません。
ただし身の丈以上に背伸びすると、燃え尽きて、途中でドロップアウトしてしまう可能性は十分あると思います。
研修医時代にがんばらなかった私でさえ、月の残業時間は当直も入れると50-100時間くらいは確実にありました。一般の会社なら過労死レベルでしょうか。
労働時間の長さに加えて、研修医には慣れない病院での仕事という、精神的な負荷も大きなものがあります。
ですから、労働時間以上のストレスを感じてしまうものです。
燃え尽きた2例
ここで、研修医中に燃え尽きた2例をご紹介します。
ある先生は、研修医時代に日本でも有数のブランド病院に勤めながら、あまりにも忙し過ぎてのか、周囲の人があまりにも出来すぎたのか、1年も経たずにやめてしまいました。
学生時代にその方はアメリカへの臨床留学も考えていた志の高い方なのですが、当然その夢もどこかに置かれてしまいました。
今は都内の中小病院で皮膚科医として働いていらっしゃいます。
別の先生は地域でも有数の忙しい病院に勤めておられました。症例数や手技の経験数といった点では、おそらく一般的な研修医の2倍とか3倍ぐらいは経験していると思います。
ただし2年間の研修を終えて、3年目も同じ病院で勤務を続けることになったようです。
ただし責任が大きくなった3年目の途中にうつ病を発症し、数年間の休業を余儀なくされてしまいました。現在はこの方も療養型の病院でゆったりと勤務されています。
もちろんこの2例の他にも、通常の研修病院で勤務していながら、つらくなって研修を途中でやめてしまう、ドロップアウトしてしまうような例はいくらでも見聞きします。
燃え尽き症例から何を学ぶべきか
これらの2症例で全てを語る事は到底できません。
ただこれらの2症例にいえる事は、人間ががんばり続けるには、相当の肉体的・精神的体力が必要で、運や環境も必要なのではないかと言うことです。
研修医時代に学んだ知識のほとんどは覚えていない
研修医時代は確かに医師にとって非常に貴重な期間です。
私も研修医時代に外科のローテーション中に学んだ縫合なんかは主として当直の時に役立っていますし、できた経験というのが少しばかり役立っていると実感することもあります。
一方で研修医時代に学んだ・経験した知識の98%くらいは、もうすでに役立たないものになっているような気がします。
産婦人科や精神科、麻酔科なんかは、経験として心の中には残っていますが、知識としては学生レベルと対して変わらないと思います。
もちろん責任を持って患者さんに使える知識は全くありません。研修医に学ぶことはそんな程度な訳です。
手技ということに関しては、採血やCVなんかは研修医時代にも多く経験しましたが、大学病院勤務だった3年目以降に研修医時代の10倍くらいは経験しました。
リスク管理がうるさい今の時代にあっては、CVを挿入する、などいったことはしておりません。
そういう風に考えるとみると、ほとんど風化してしまう知識や、3年目以降にいくらでも経験できる経験を、わざわざ燃え尽きのリスクを背負って激務な研修医時代を送るのはどうかな、と思ってしまいます。
普通の研修医生活で十分なのではないかと思ってしまうのです。
うつ病になる研修医は意外と多い
そのように研修医に少しだけやさしい時代なのですが、それでも研修医は激務です。
さて病院にいると共通の話題はあまりないですから、研修医の先生方の噂というのはよく耳にします。
社会人として働き始め、慣れないことに戸惑うことも多いですから、病院を休んでしまったりする研修医もいるようです。
うつ病は心のカゼといわれるほどありふれた症状ですから、どの職場でもそうですが、心の病というのを完全になくすことは難しいものです。
研修医=激務が当たり前とされていた時代には、そのような先生方も多かったのではないかと推測されます。
今や研修医であっても、立派な労働者なわけですから、自らを犠牲にしてまで働く必要はありません。
病院、患者さんのために盲目的に働く前に、自分の肉体的精神的な健康というのを第一に考えるべきです。
研修医を辞めてしまったりとか、自ら命を絶ってしまうというのは取り返しのつかないことですから、これは避けなければいけません。
研修医は適当にがんばって良く学べば良い
ですから、研修医の間は心の、体の健康第一に適当に頑張っていれば良いのではないでしょうか。
自らの健康を気遣ったうえで、病院にいるときには力いっぱい働けば良いのだと思います。
研修医というのは大抵の場合は病院の中では最下層であり色々と学ぶべき存在ですから、学ぶという姿勢は重要です。
しかし学ぶというのは上にも書いた通り、自らのプライベートや、健康を害してまで働くということではありません。
患者さんの治療をする、患者さんの命を救うということにおいては、どうしても多少の自己犠牲を払う必要はあるかもしれません。
しかし自らの健康や命を害してまで行うものではありません。
そもそも過労死ラインを行ったり来たりしながら働いている研修医にもっとがんばれなんて、もはや普通の人間が発せられる言葉ではありません。
労働に関して極めて一般的なことを、ぜひとも医学部時代に教えてもらいたいものです。
私がよくかける言葉
研修医はいろんな診療科をローテーションしたり、人間関係の変化が多かったり、労働時間が長く自分でコントロールできないなど、うつ病になりやすい環境が揃っています。
ですから、私は研修医の先生方には「あんまり頑張らなくて良いよ」と言葉をかけることにしています。
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