【医師の視点】患者さんの怒りの原因は大抵はささいなことである。その原因と対策とは

病院で働いていると、患者さんの怒りとは無縁では要られません。

看護師や病院職員にキレる患者は数多く、医者にだって怒りをあらわにする患者さんもいます。

外来で診療していると、患者さんに怒鳴られることは何度も経験します。

もちろん医療者側としては、円滑な関係を築けるように十分注意しているのですが、それでも怒られてしまうことはあるんです。

その原因と対策について考察してみましょう。

大抵の怒りの原因はささいなこと

患者さんの怒りの原因は大部分はささいなことです。

病気が治らなかったとか、手術が失敗したとか重大なことで怒りを表出するのはまだ理解できないこともありません。

ただ、ほとんど場合の患者さんの怒りの原因とは、ちょっと医療者側の態度が悪かったとか、少し言葉の選び方が悪かったなどです。

患者さんにしてみれば、病状が深刻な場合には常に不安・緊張状態に置かれているわけですから、怒りがどこかに向かってしまうのは、仕方ないことです。

と大人になって考えるのが、あるべき医療者の姿ですね。

トラブルを起こす医師はだいたい決まっている、という言葉

病院で医師患者間のトラブルについてのレクチャーがありました。その中である病理診断科の女性医師は、以下のようなことをおっしゃていました。

患者さんとトラブルを起こす医者というのは大体決まっている。トラブルが起きるのは、医者が悪いからだ

といったような言動です。

残念ながらその先生は普段から患者を診察することもなく、おそらく医師-患者間のトラブルについて何もしらなかったのでしょうが、普段患者さんと接している医師たちの前では不適切な発言だったと言えるでしょう。

患者さんとのトラブルの原因は、医師の方にも大きな責任があるというのは本当にそうなのでしょうか?

医師患者間のトラブルの一番の原因は信頼関係の不足である

患者さんとのトラブルで1番大きな原因となるのは、何よりも医師患者間の信頼関係の不足です。これが1番大きな原因です。

医療とは不確実なものですから、すべての治療がうまくいくとは限りません。運が悪ければ、何でもないような検査や処方によって大きな副作用が出てしまうことがあります。

そのようなイレギュラーな事態に対して患者さんが納得してくれるかどうかは、普段から医師が患者さんに対して誠意ある対応をすることで、うまく信頼関係が構築できているかにかかっています。

たまに患者さんを診察していると、主治医から

こちらのミスです、申し訳ありません

と言われた、なんて話をされる患者さんがいます。

第三者から聞いていると、医療訴訟になってしまうのかと思いきや、患者さんの方は妙に納得しているのです。

ミスが起こったからといってすぐさまトラブルなるわけではなく、適切な信頼関係があれば多少のことでは問題にならないのは、しばしば実感されるところです。

信頼関係の構築は、医師の能力にも依るだろう

医師と患者の間でトラブルが多いか少ないかは、信頼関係をうまく構築できる医師であるかどうかに左右される場合があるといえるでしょう。

その意味では、トラブルになりやすい医師、そうでない医師の間にはある程度の傾向があるのかもしれません。

何事もにも動じず、常に患者さんにやさしく接する医師であれば、信頼関係の構築はほとんどのケースでうまくいくでしょうから、その分患者さんとのトラブルは少ないかもしれません。

一方で不愛想で相手のことを思いやらない医師の場合には、もしかしたら医師と患者のトラブルは多い傾向にあるのかもしれません。

しかしながら、医師側の要因以外にも、どうしようもない患者側の要因も絡んでくるのです。

患者さんと良好な関係を築くためにすべきこと

ですから私たち医療者側は、常に態度や言葉遣いなどに気をつけなければなりません。

病院はコンビニやスーパーとは違いますから、サービス業のように過度に下手にでる必要はありません。

極論すれば、一般病院の勤務医である限り患者さんがたくさんやってきたところで自分の給料は変わりませんから、むしろあまり患者さんがいない方がゆったり仕事ができて良いわけです。

ただそうはいうものの、トラブルがあっては面倒になりますから、高圧的な態度や言葉遣いは十分慎まなければなりません。

ある30代の女性患者

私も不用意な発言で患者さんの表情を曇らせてしまった経験があります。

30代の女性の末期がんの患者さんを診察した際に、不用意なことを言ってしまって、患者さんの顔を曇らせてしまったことがありました。

一度発した言葉はなかなか取り戻せないですから、デリケートな状況に置かれた患者さんに対する発言は十分注意する必要があると認識した一例でした。

患者さんの立場になって、患者さんに寄り添うような姿勢を見せることが大切なのかもしれません。

これは医師 – 患者関係だけでなく、人間関係において非常に基礎的な部分だと思います。

理解不能な怒りも多い

患者さんの怒りには真摯に向き合うべきですか、理解不能な怒りも少なくありません。

モンスターペイシェントという言葉が認知されるようになっていますが、どうあがいても患者さんの怒りの原因がわからない場合もあります。

私自身も、外来の患者さんを予約時間から5分待たせてしまっただけで、診察室の中で大声で怒鳴られてしまったことがありました。

その患者さんは生死に関わるような病気ではなく、以前から馬が合わないところがありましたので、丁重に他の病院への受診をお伝えしました。

5分程度の遅れで診療が進んでいることも、病院全体にとっても外来にとっても奇跡的なことなのですが、そのようなことが理解できない患者さんを継続して診療するのは難しい、との判断の結果でした。

この他にも、こちらの無理のない要望を伝えたところ「私は絶対に従わない」といって、医療者側、病院の要求を全く聞き入れてもらえず、最終的には怒ってしまう患者さんもいます。

怒りやすい患者さんの背景には、どこか病院はレストランとかコンビニとか、認識がずれていると感じることはよくあります。

どうして理解不能な怒りが多いのか?

患者側の理解不能な怒りの背景の一つには、日本の医療が安すぎることがあるかもしれません。

日本の医療制度の下では、病院を受診しようとすると思いった場合には、すぐさま専門医の診察を受けられるような体制が整っています。

中には大学病院の高度な外来を、紹介状なしに受診できる場合もあるでしょう。そのような場合でも患者負担は最大3割です。

このような恵まれた医療へのフリーアクセスと低価格は、諸外国ではほとんどみられない例です。

もし病院で専門医の診察を受けることが、例えば半年待ちのレストランでのディナーのようなものだとしたら、患者さんの怒りもそこまでではないと思うのです。

半年待ってまでちゃんとした医療が受けれないとなれば、患者さん側も簡単には怒りをあらわにしないでしょう。

最初から攻撃的な患者もいる

最初から攻撃的な態度で出てきている患者さんがいるのも事実です。

急病の患者や話の長い患者さんがいる中で、診察が分単位で予定通り進む事はありえません。

それに医師-患者関係は人と人との関係なのですから、こちらがどんなに気をつかっていても、相手にとっては不快な言葉になってしまう可能性もあります。

医師と患者の関係を作っていく前からすでに攻撃的な患者さんもおられ、その対応には非常に苦慮します。

怒られると医療者側の士気が下がる

怒鳴られてしまうと、実際に診療している私たちの士気は低下しますし、周りで働いている医療クラークや看護師の方にも心理的な負担になります。

また病棟では病院をホテルと勘違いしている方もおられ、1から10まで自分の要望が聞き入れられないと、怒ってしまう方もおられます。

あくまで私たちは患者さんと対等な立場であり、その上で医療提供しているわけですから、やはり一方的に怒鳴られて要求を突きつけられてしまうとなかなかつらいものです。

医療者側の対策。カルテへの記載はきっちりと

そのような激怒する患者さんに関しては、ありのままの事実をカルテ等に記載することはもちろんです。

そのほかにカルテに残らない形で、対応注意として医療者に周知するような対応がとられています。

したがってそのような患者さんは、一見丁寧に対応されているように感じるかもしれませんが、実際のところは当たらず障らずと言った感じで最低限の対応しかおこなえないのが現実です。

ましてや患者さんの選択がある程度自分達の権限で行えるクリニックや中小規模の民間病院では、支障のない範囲で通院を早めに打ち切ったりったり、ひどい場合には診療拒否の対応が取られることもあります。

患者さんが怒りをあらわにすることは、最終的には自分自身にはデメリットとなって跳ね返ってくることを十分認識しておくべきですね。

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2018年7月27日
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